金融市場NOW

英国下院議会 新離脱協定案の採決を保留

2019年10月24日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

野党勢力は合意なき離脱の完全排除を目指す動き

  • 英国ジョンソン政権はEU(欧州連合)からの新離脱協定案でEUと合意するも、合意なき離脱の完全排除を目指す野党勢力の抵抗もあり、新離脱協定案の採決は保留。
  • 合意なき離脱の可能性は低下しつつあるものの、市場が離脱問題の動向に反応する展開は継続か。

合意なき離脱の完全排除を目指す動き

ジョンソン政権は、17日EU首脳会議において新離脱協定案(新協定)で合意しましたが、19日の議会では採決が保留されました。離脱後の移行期間中のEU法の英国内での取り扱いなどを定めた離脱関連法案(WBA)の成立を新協定よりも優先させる動議が可決されたためです。動議を行った議員は「新協定が可決されたとしてもWBAの審議の遅れにより、合意なき離脱に陥ってしまうことを避けるため」と説明しています。

新協定は最大の争点であったアイルランドとの国境問題において、英国領北アイルランドが通商面で事実上のEU残留に近い解決策へと修正され、懸念されたアイルランドとの厳格な国境管理が避けられる見込みとなりました。この解決策は野党幹部より「メイ前首相案よりもひどい」と批判され、特に北アイルランド地域政党のDUP(民主統一党)からは反対の声があがっています。

複雑な北アイルランドの情勢

新協定では、北アイルランドの通商面での将来の立場は北アイルランド議会に委ねられました(表1)。5月に行われた欧州議会選挙では、親EU政党が3議席中2議席を占め、北アイルランドの世論は通商面で親EU的な立場を支持する可能性があります。長期間に亘りEU残留に近い「特別な立場」が継続されることも考えられます。この状況が継続されれば、EU残留などを公約に英国からの独立を目指すスコットランドの独立運動が再び活発化することも想定されます。

表1:新離脱協定案の北アイルランド関連項目

主な項目
北アイルランドにおける農産物や工業製品など物品規制はEU基準を適用する。
英国本土(グレートブリテン島)から北アイルランドに入る物品はEU基準の関税手続きを行う。(関税などが一律徴収され、北アイルランドを通過してアイルランドへ向かう物品には徴収、北アイルランドに留まる場合は還付。)
上記特別措置の継続の有無は、4年毎に北アイルランド議会(地方議会に相当)での単純過半数採決により意思決定。
  • 北アイルランド議会の伝統的意思決定方法である単純過半数かつ対立する両会派(ナショナリスト:独立派とユニオリスト:英国残留派)のそれぞれ過半数賛成の要件が採用されていない。(両会派に属さない中立会派も存在する。)

出所:新離脱協定文書のデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

合意なき離脱の可能性は低下したが

グラフ1:日米株とポンドの推移

  • 出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

ジョンソン首相は、WBAの審議日程の短縮を議会に提案するなど、期限である10月31日の離脱に拘っているように思われますが、日程的に厳しいとの見方が大勢を占めています。EU側は離脱延期を各国に働きかけ、英国議会の動向を見守るとしています。ひとまず「10月31日の合意なき離脱」の可能性はかなり低下したものの、新協定の承認は野党勢力の反対もあり、見通しにくい状況にあります。今後、英国内の動向やそれに対するEU側の対応次第では、再び不透明な状況となることが想定され、合意なき離脱は完全に排除されたとは言い切れないものと思われます。

新協定合意の過程(10~17日)において、市場は合意なき離脱リスクの低下を好感しました(グラフ1) 。引き続き合意なき離脱の行方を、市場は日々織り込む形で推移するものと思われます。10~17日の市場の反応が示すように、今後合意なき離脱が完全に排除され、そのリスクがなくなることは、円安や主要国株式の支援材料になるものと思われます。

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