金融市場NOW
英EU貿易交渉 独は「貿易協定なしプラン」の立案を求める
2020年07月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
12月末の移行期間を延長しないことを確認
- 英国とEUによる通商協定の第4ラウンド交渉は、交渉の決裂を回避し今後も集中協議を行うことで合意。
- 移行期間の延長は行わないことが確認され、英国の貿易協定なしの“完全な離脱”が現実味を帯びてきていることから、デッドラインとされる10月末に向けてリスク要因となることが懸念される。
貿易協定なしの完全な離脱が現実味を帯びる
英国のEU(欧州連合)離脱にともなう新通商協定の交渉(第4ラウンド)が行われました。英国は今回の交渉で大枠合意ができなければ交渉から撤退する姿勢を示していましたが、7、8月に集中的に協議を行うこと(表1)で決裂が回避されました。また、12月末までの移行期間(離脱前の状態が維持される期間)を延長しないことが確認されました。来年1月1日から双方の貿易品に関税が課され、経済活動への大きな打撃となることを避けるためにも、年内の自由貿易協定などの締結が必要です。
ドイツは貿易協定が締結されないことに備えて、「貿易協定なしプラン」の立案を進めるべきだと主張しています。英国の合意なしの“完全な離脱”が現実味を帯びてきていることから、市場では欧州経済へのマイナスの影響が徐々に意識されると思われます。
表1:交渉日程等
日程 | 内容 |
---|---|
7月17日~ | EU首脳会議 |
7月中 | 実務レベルでの集中協議(5回) |
8月中 | 実務レベルでの集中協議(1回) |
10月15日 | EU理事会 |
10月31日 | 年内批准のための交渉のデッドライン |
11月26日 | 年内批准に向けた欧州議会への通商協定提示期限 |
12月10日 | EU理事会 |
12月31日 | 移行期間終了 |
英国政権は個別項目ごとの合意を要求
交渉にあたり双方は「全品目関税なし、関税割り当て数量枠なし」の意向で一致しています。しかし自国の産業構造や基準に沿った政策を採るために項目ごとの合意を求める英国に対し、EUは包括的な合意を求めています。
EUは英国以外のカナダなどの第3国との自由貿易協定では、EU基準の採用を厳格に求めておらず、英国は第3国と同様の扱いを求めています。しかし、英国とEU各国の貿易額は多額で(グラフ1)、EU各国の経済に占める重要度が高いことから、EUは英国にEU基準(もしくは近い基準)の採用を求めています。各国議会での承認が必要となることから10月末が合意のデッドラインとされます。仮に合意に至ったとしても、一部で通関業務が発生する場合には、実務面での混乱が予想されます。フランスと英国の間は年間約250万台のタンクローリーが行き交っており、貨物へのチェックが必要となれば、通関業者の不足や渋滞発生による物流などへの影響が危惧されるため、合意内容にも注意が必要との見方もあります。
景気回復の状況が交渉に影響を及ぼすか
24日に公表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでは、英国のGDP(国内総生産)は311年ぶりの低成長となる前年比-10.2%となりました。EU諸国も大幅な景気低迷が予想されていることから、今後の景気回復の状況なども交渉に影響を及ぼすものと思われます。各国の資金供給によるカネ余り環境の中、年後半の景気回復を織り込み主要国株価が上昇する一方で、ネガティブな材料には敏感に反応する展開となっています。10月にかけて交渉進展の状況が市場を揺るがすリスク要因となることには注意が必要と思われます。
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