金融市場NOW

英国EU離脱 年末までに通商協定で合意できるか

2020年02月10日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

交渉内容の概要は2月25日に決定予定

  • 英国がEUを離脱し年末までの移行期間に入った。移行期間中にEUとの通商協定に合意できなければ、貿易総額の約5割を占めるEUとの貿易品に関税が発生する。
  • 部分的な暫定合意が現実的な落としどころか。今後交渉の行方を巡り市場が混乱する局面も。

1月31日 EUを離脱し移行期間入り

英国は1月31日、EU(欧州連合)を離脱し、約50年間に亘るEU加盟国としての歴史に終止符を打ちました。英国は12月31日までの移行期間中は、単一市場、関税同盟に留まるものの、これまでEU加盟国として締結されていた他国との通商協定は、再度結びなおす必要が生じています。

英国ジョンソン政権は、移行期間の延長(EUとの取り決めでは1度だけ2022年末まで延長可)を禁止する法案を英国議会で可決させ、移行期間終了後の「完全離脱」を表明しています。

英国は「カナダ型協定」を目指すが

表1:英国がWTOルールで課される
主な関税率

  • 出所:各種報道資料等をもとにニッセイアセットマネジメントが作成
物品 税率
ジャム類 24.0%
オレンジ 16.0%
テレビ 14.0%
自動車 10.0%
たまねぎ 9.6%
スプーン 8.5%
エンドウ豆 8.0%
カーペット 8.0%

2018年のEUへのモノやサービスの輸出は英国の全輸出額の約45%。輸入については全輸入額の約53%を占めています。通商協定が移行期間中に合意に至らない場合には、この輸出入に関税が発生することになり、一般的に多国間の公平な貿易を定めたWTO(世界貿易機関)のルールに従って関税が課されることが想定されます。例えば、自動車は10%、乳製品類においては平均で35%以上の関税が課されることが見込まれます(表1)。

ジョンソン首相は「カナダ型(EUとカナダの通商協定)を望むが無理であればオーストラリア型でもよい。」と発言しています。カナダ型協定は、英国が望む「人の自由移動の制限」などが取り決められた上で、物品関税を数年かけてほぼゼロとする仕組みです。ただし、英国が競争力を有する金融サービスなどに関する項目がなく、この項目の追加を求めて、交渉が長引けば関税の発生など産業への影響が懸念されます。また、EUとカナダ双方の輸出入総額に占める割合(2018年)は10%程度であり、英国とEUの関係とは大きく異なります。カナダ型が不可能な場合のオーストラリア型の通商協定に至っては、2008年に大筋でEUと合意したものの、未だに交渉中であり、「合意がないまま移行期間を終える」ことと実質的に同じと批判する声もあります。

部分合意が現実的な落としどころか

各国の通商協定交渉には10年近い年月が費やされており、10カ月程度での合意は不可能と見られています。英国と国境を隔てるアイルランドのバーラッカー首相は全面的な合意ができなければ部分的な合意も辞さないと発言しており、市場参加者は暫定的な部分合意を現実的な落としどころと想定しているようです。ただし、EU側はすべてが合意に至るまでは、部分合意しないとのスタンスを示しており、移行期間が終了する年末に向けて、通商交渉の行方を巡り市場が混乱する局面の到来が想定されます。

表2:交渉日程等

  • 出所:各種報道資料等をもとにニッセイアセットマネジメントが作成
日程 内容
2月25日 EU加盟国による交渉方針承認予定(英国と交渉開始へ)
3月11日 英国新年度予算(2020年4月~)発表
3月26日 EU理事会
6月18日 EU理事会
7月1日 移行期間延長(2022年まで)希望の申請期限
10月15日 EU理事会
11月26日 年内批准に向けた欧州議会への通商協定提示期限
12月10日 EU理事会
12月31日 移行期間終了

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