金融市場NOW

英国 EU離脱方針混乱に次ぐ混乱

2018年07月20日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

メイ首相のEU(欧州連合)離脱方針に議会は混乱も狭まる選択余地

  • EU離脱の基本方針を示した英国政府白書ではEUとはモノの自由貿易圏を創設することを表明。
  • 強硬離脱派、穏健離脱派双方が政府方針に異を唱え法案の修正を試みる等議会は混乱。下院議会でいくつか法案は可決されたものの、離脱が近づく中、予断を許さない状況。

政府方針:モノはソフト・ブレグジット(穏健離脱)、サービスはハード・ブレグジット(強硬離脱)

メイ首相が12日に公表したEU離脱方針を示した白書『英国とEUの将来の関係』では、農産物を含むモノの自由貿易圏を創設することや、金融を始めサービスにおいてはEU貿易圏を離脱し、世界各国と新たな関係を模索することなどを表明しました。また、大きな課題となっている北アイルランドとアイルランドの国境問題については、モノの自由貿易圏の利用を想定し、厳格な国境管理を行わずベルファスト合意(英国、アイルランド双方が北アイルランドの領有権を主張せず自治政府に委ねる)の尊重を表明しました。また英国はEUの付加価値税とは別の課税体系を築くことや、新しい貿易協定の交渉にあたっては、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加検討、自由貿易圏ではEUと英国の国境が明確ではないエリアが生じることから、EUに代わって英国が関税を徴収するなどの方針が示されました。発表された政府方針を巡っては、EU側に歩み寄った穏健路線すぎるとして閣議の時点で2大臣が辞任しており、強硬離脱派からはこれは『ブレグジットではなく、ハーフブレグジット』だと不満の声が上がっていました。これを受け政府は英国による関税徴収はEU側でも同様の徴税協力を得られる場合に限るなど、数項目において法案の文言修正を受け入れました。この修正には、EU側との交渉が困難になるとして国防省のベブ閣外大臣(日本の副大臣級職)が辞任を表明し、穏健離脱派はEU側へ譲歩余地を残す更なる文言の修正を試みる(採決は否決)など、与党・保守党内の対立は深まり、まさに混乱に次ぐ混乱といった状況にあります。来年3月に離脱が迫る中、混乱により時間が経過すれば、選択の余地が狭まるとの指摘もあります。

英国政治をとりまく環境からの反応

政府方針公表を受けてEU側は内容を吟味すると静観の態度を見せました。サービスのEU貿易圏離脱を受けて、金融業界はビジネスを劇的に変更しなければならないと危惧する声があがりました。保守党内の混乱からメイ首相の政権基盤が危ぶまれ不信任投票の可能性も囁かれています。ただし、1度投票が行われると1年間は不信任投票ができないルールがあるため、容易に動議できるものではないとの見方もあります。また、文言の修正等はあったものの、いくつかの法案は下院では政府方針が僅差で可決されており、万全ではないものの議会承認は進捗していると評価する声もあります。またカーニー英国中央銀行総裁は、条件などEU側と合意できないままの離脱は「経済に重大な結果をもたらす」とし、金利動向に「重要な出来事になる」ことなどの悪影響を警告しました。政府方針をめぐり2大臣が辞任した際には英ポンドが売られるなど、日々の離脱動向がマーケットリスクとなる状況が当面継続することが想定されます。

グラフ:年初来の英国金利・為替の推移

出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

表:『英国とEUの将来の関係』白書の一部概要

出所:英国政府HP・各種報道資料をもとにニッセイアセットマネジメントが作成
項目等 主な方針
モノ貿易 農産物や生鮮食品を含めたモノの摩擦のない相互市場へのアクセス保証(サプライチェーンやそれに絡む仕事、生活の維持)
サービス貿易 EU外との新たな貿易機会の模索。EUと現レベルの相互市場へのアクセス停止(金融業の単一パスポート制度の利用停止)
農業・漁業 EU圏共通の農業・漁業ルールからの離脱。英国独自の政策決定への回帰
貿易政策 独立した貿易政策の構築。WTO(世界貿易機関)加盟国としてTPPへのアクセスなど他の国との貿易協定を模索
移動の自由 EU圏との移動の自由終了。英国への入国者数管理などを再開
EU予算への拠出金 特定分野への貢献を除き、巨額の拠出金の終了。それらの予算はNHS(国民医療サービス)へ拠出

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