サステナブル投資インサイト
No.4
パーム油に潜む財務リスクにどう備えるか
~企業に求められる3つの対応~
2026年10月21日号
執筆者
サステナビリティ
ストラテジスト
寺門 雅代
シニアアナリスト
黒沼 亜由美
パーム油は、現在、食品、日用品から化学工業品まで幅広いセクターで利用されています。安価、多機能、生産効率の高さから、他産品では代替がしづらい重要な原材料といえます。しかしながら、中長期的には、日本の主要調達先を中心に、生産量低下リスクが顕在化しつつあります。ニッセイアセットでは、こうした状況をふまえ、パーム油に関連するリスクを、重要な自然資本リスクの一つとして考えています。この課題意識のもと、企業との対話を進めており、その中で、企業に必要な対応として「現状分析」「対応策と効果測定」「調達困難時を想定した事業戦略」の3つが浮かび上がってきました。本稿では、パーム油を取り巻くリスク及び企業に求められる対応の解説と、科学的データを活用して特定した高リスク投資先との対話事例をご紹介します。
パーム油の重要性と、生産地の偏在
パーム油は、加工が容易かつ酸化しづらいという利便性を持ち、幅広く使われている植物油です。その用途は、マーガリンやチョコレートなどの食品から、洗剤やシャンプーなどの日用品、さらには化学工業分野まで多岐にわたります。加えて、安価、多機能、生産効率の高さから、他産品では代替がしづらい重要原材料と言えます。一方で、パーム油の原材料であるパーム果房は、高温多湿な熱帯雨林気候でしか栽培できず、世界の生産量の約85%をインドネシア(約55%)とマレーシア(約30%)の2か国に依存している状況にあります。
急拡大する市場と、将来的な供給限界の懸念
パーム果房の生産は、需要の増加に伴い2000年以降急速に拡大し、現在、世界全体で年間約4億トンを超える規模に達しています。このような中、日本の主要調達先を中心に、将来的にも現在の生産量を維持できるかについては、限界があると考えられています。
図表は、世界全体のパーム果房の生産量のこれまでの推移と、今後の推計を示したものです。推計では、前提として、各国の栽培面積は、ピークに達した後も同水準が維持されるという保守的な仮定を置いています。そのような前提をおいた場合、今後、世界全体のパーム果房の生産量は一時的な減少を経て、再び増加へ転じる見通しとなっています。これは、今後はグアテマラなどの新興国で生産量が拡大する可能性が高いことが背景にあります。
図表:世界のパーム果房生産量の推移および将来予測(1970-2050)
- 出所:1970-2024年の実績値はFAOSTAT(1961–2024年)のデータ、2025年以降は株式会社シンク・ネイチャーによる予測値を基にニッセイアセットが作成
一方、日本の主要調達先であるインドネシアやマレーシアに目を転じると、中長期的に生産量が低下する可能性が高まっていると指摘されています。その主な理由は以下の3点になります。
- 樹木の高齢化
- アブラヤシ(パーム果房のなる樹)は、樹齢が一定年数を超えると、収穫効率が大きく低下します。特にマレーシアでは全体のうち高齢化した樹木が20%を超えているとも言われています。対策として、新しい苗への植え替えが必要になりますが、一旦植え替えると、収穫までの数年間は生産が行えず、生産者は無収入になるため、現地の小規模農家では植え替えが進みづらい状況にあります。
- 病害による影響
- 東南アジアでは、ガノデルマなどの樹病が拡大しています。これはアブラヤシにとって致命的な病害であり、急激な生産量の減少を招く可能性が指摘されています。近年の気候変動による温度変化や、慣行農法の継続による土壌の劣化などにより、生育環境が変化・後退した結果、この可能性は高まる傾向にあるといわれています。
- 気候変動による影響
- アブラヤシは熱帯の限られた降雨条件に強く依存していることから、気候変動の影響を特に受けやすい植物です。上記の病害拡大に加え、深刻な干ばつや豪雨、洪水による樹木・土壌への被害により、農園での生産活動が難しくなる状況に陥る可能性があります。
これらの「環境面の問題」に加えて、劣悪な労働環境や労働者の流出といった「社会面の問題」も、生産量押し下げの要因として懸念されます。このほか、パーム油生産には広大な土地が必要ですが、農地の新規開拓による増産は困難な状況にあります。その背景には、欧州が進める森林破壊防止の規制や、生産国における新規プランテーションの開発制限強化があります。
パーム油に潜む財務リスクと、企業に求められる3つの対応
このように、複数の問題が絡み合うことによって、パーム油の生産量減少は多くの地域で一時的なものではなく、中長期的に常態化すると懸念されます。その結果、価格高騰や供給の不安定化、さらには調達難を招く可能性が高いと考えられます。
このような見通は、将来的な調達コストの増大や事業継続のリスクにつながる可能性があり、パーム油を使用する多くの企業にとって大きな財務リスクになり得ます。また、その影響は商社、小売り・外食、包装・化学など、サプライチェーン上の広範な企業に及ぶことが予想されます。
このリスクに対して、企業は3つの対応を検討する必要があると考えます。
- 現状分析とリスクの再確認
- 自社のビジネスにおいて、どのぐらいのパーム油を使用しているのか、また、パーム油を使用する製品等は売上高の何割を占めているのかを再確認し、パーム油の安定的な生産・調達に関連するリスク分析の必要性を判断することが重要です。
- 対応策の策定と、定量的な効果測定
- 自社ビジネスがパーム油を取り巻くリスクから大きな影響を受けると判断される場合は、今後の対応策とともに、その効果を定量的に測定する方法を検討することが重要です。例えば、多くの企業が「認証油(※)」の調達拡大を目標に掲げていますが、それが将来的な安定調達にどこまで結びつくのか、客観的に検証する視点が欠かせません。また、一部の調達先農園が進める有機農法の導入といった抜本策についても、生産の持続性を高め、長期的な原材料確保につながっているかを見極めていく必要があります。
- 森林破壊や人権侵害などを伴わずに生産されていることを、第三者機関等が審査し認証したパーム油
- 調達困難時を想定した事業戦略の構築
- 調達難が実際に顕在化してからでは、対応が後手に回る恐れがあります。そのため、現段階から原材料の使用効率向上や代替原材料の検討、さらにはビジネスモデルの転換まで視野に入れた、中長期的な事業戦略を策定しておくことが重要です。
当社の取り組み:「シンク・ネイチャー社」との協働、サプライチェーンに潜むリスクをめぐる対話活動
ニッセイアセットでは、このようなパーム油を取り巻く課題に代表される自然資本の棄損を、投資先企業の中長期的な成長や企業価値に影響をもたらし得る課題と考えています。そこで、投資先が、グローバルサプライチェーンを通じて依存する原材料に着目し、関連するリスク・機会を分析しました。その過程では、沖縄発のスタートアップ企業である「シンク・ネイチャー社」と協働し、同社の科学的知見やデータ、AI技術を活用しました。高解像度な分析を積み重ねた結果、高リスク銘柄を特定し、2025年度よりこれらを中心に対話を強化しています。
この取り組みの一例として、食品メーカーA社に対しては次のような対話を行っています:
A社は、現在、同社製品の原材料としてパーム油に大きく依存していますが、今後のビジネス戦略上、その使用量をさらに拡大する計画を有しています。同社は、一部TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)に基づく対応・開示を行っていましたが、パーム油のような主要原材料について具体的シナリオに基づく分析には至っていないと見受けられました。サステナビリティ担当部署においても、リソース不足から追加の対応は先延ばしにせざるを得ないという課題意識がうかがえました。そこで当社からは、科学的シナリオに基づきパーム油の世界的供給減リスクについて共有し、リスク点検を行うことの重要性について説明を行いました。今後、更に対話を重ねて、「調達リスク」「事業リスク」としての本課題への組織的認識を高めていくための糸口を共に探り、議論を行っていく考えです。
実効性の高い対話に向けて
以上のように、当社は科学的データに基づく分析を活用しながら、投資先企業との対話を行っています。分析結果を通じて自然関連のリスク・機会に関する課題認識を共有し、解決の糸口を共に模索することを目指しています。こうした対話が企業の事業変革や改善行動をもたらし、中長期的な企業価値の向上につながることを期待するとともに、今後も対話経路の拡張と深化に取り組んでいきたいと思います。
- 内容は執筆者の個人的見解であり、当社の公式見解を示すものではありません。
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