吉野貴晶のクオンツトピックス

No.13
POSデータ(オルタナティブデータ)によるマクロ消費の予測 2

2019年10月25日号

写真(吉野)

投資工学開発室
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

写真(髙野)

投資工学開発室
髙野 幸太

ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。

予測可能性の検証

先述の問題点を考慮するために、毎月POS小売指数を作成し、その翌月発表の小売業販売額の確報値に対する予測の精度を確認してみたいと思います。「精度」の定義は様々考えられますが、今回は前年比の数値において、前月と比較してプラスかマイナスか、この符号を精度比較に利用します。
例えば、2019/3月が前年比3%、2019年4月が前年比4%である場合、2019年4月は前年比が前月対比で+1%であり、符号はプラス、です。今回は、その時分かるベースの時点で2015/12~2019/8迄の範囲で翌月指標の符号正当性を検証しています。

図5.毎月予測指数を作成しての符号検証

  • POSデータは日次で集計され、かつ速報性が高いため月初~上旬には前月POSデータは揃う。一方、ある月の小売業販売額の確報は翌々月の中旬に発表される(速報は翌月下旬)。両データがそろい次第、相関確認等を経てPOS小売指数を作成するプロセスを踏んでいるので、タイミングが遅い方である月の中旬を起点に採用している。

予測可能性の検証

正答率の時系列推移が図6です。起点を固定した場合の各時点までにおける符号正答率です。直近は約70%程度となっており、前年比の前月差の符号判定、という精度検証では、ある程度の精度が出ているといえると思います。

図6.シミュレーション期間における符号予測精度の推移(起点は2015/12月)

図7.小売業販売額指数(前年比)に対する符号予測が正解した領域(色塗り区間)

予測を活かすには?

3.どのような活用が考えられるか?

今回のレポートではPOSからマクロ指標の一つである小売業販売額を予測するところまでを紹介しました。さて、マクロ指標を予測するとどんな良いことがあるでしょうか?ここが運用手法開発プロセスにおけるもっとも重要な点です。例えば小売業販売額と連動性の高い銘柄を特定し、その売買に利用することが考えられます。または、小売業セクター(業種)全体に対する売買への適用も考えられます。さらに幅広に、マクロ景気全体の方向感を掴み、ベンチマーク(一般的に東証株価指数が多い)に対するエクスポージャーのレバレッジや売りヘッジに活用することも可能かもしれません。ただし、これらには、更に多くの検証が必要になります。

4.終わりに

投資工学開発室では、マクロ経済の観点でPOSデータから様々な経済指標を予測できないか、という検証を実施しています。また、商品レベルの細かな情報からは、特定商品グループの売れ行き予測など、よりミクロな活用を即時性高く行うことが可能になるように研究開発も行っています。

今回ご紹介させて頂いたPOSデータを含め、新しいデータ群であるオルタナティブデータに関しては、今後も投資手法に対して更なる研究開発が進んでいくでしょう。

(補足)確報値の発表を待ってPOS小売指数を作成するべきか?

今回の検証では、小売業販売額の確報値の発表を待ってPOS小売指数を作成しています。一方、速報値は半月ほど早く発表されています。理屈では、この直近速報を過去分の確報と組み合わせてPOS小売指数を作成することも可能です。注意すべき点としては、速報と確報で大きく値が異なる場合があるかどうかが考えられます。小売業販売額について確認してみると、比較的速報と確報の差が小さいことがわかります。よって、速報を組み合わせた、より早いタイミングでの予測についても可能かもしれません。

図8.速報と確報の差異

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