吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.31
外国人投資家の売買動向の季節性

2022年01月13日号

投資工学開発部
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

  • 株価の季節性と外国人投資家の季節性はある程度の関係があると見られる。
  • 足元では外国人投資家の季節性を崩すほどの材料は考えにくいとみている。

株式市場には良く知られる1月効果というアノマリーがあります。1月は株高になりやすい傾向があるというものです。その主因の1つにクリスマス休暇明けした外国人投資家が、年が明けて株式市場に戻り、投資姿勢を強めるからと言われます。つまり、1月効果の背後には、1月に外国人投資家が買い越す傾向があるということです。そこで月別に外国人投資家の投資動向を見て確認しましょう。東京証券取引所が公表する月次ベースの投資部門別の売買動向(現物と先物の合計)を使って、1998年1月から2021年11月までの期間を対象に集計してみると、この間に1月に外国人投資家が買い越した年は16年ありました。これは対象とした24年間のうちの67%と、比較的高い割合です。同じように他の月でも計算した結果が下図です(図中の“外国人投資家が買い越した月の割合”)。また、比較に日経平均株価の勝率(上昇した月数÷対象とした月数)も並べてみました。2つのグラフは完全に連動しているとまでは言えません。しかし、外国人投資家の買い越しが高い割合となった1月は、日経平均株価の勝率も58%と比較的高くなる関係が見られます。また夏休みシーズンで外国人投資家の買い越し姿勢が他の月と比べると下がる8月(図中の“〇”部分)には、日経平均株価の勝率も42%と低い水準を見せています。これら2つのデータの間には、ある程度の関係はありそうです。

図:外国人投資家と日経平均株価の月別季節性

  • 注1:データ期間は1998年1月から2021年11月
  • 注2:外国人売買差額は、二市場ベース。先物も含んでおり対象は日経225先物、日経225mini先物、TOPIX先物、ミニTOPIX先物、JPX日経400先物の合計。
  • 注3:外国人投資家が買い越した月の割合は、分析対象期間における月のうち外国人投資家が買い越した月の割合。日経平均株価が上昇した月の割合は分析対象期間における月のうち日経平均株価が上昇した月の割合。一般に勝率と言われる。
  • 出所:東京証券取引所と日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成

そして、1月だけでなく、外国人は2月も買い越す傾向が続くようですが(図中“□”部分の71%)、これが日経平均株価の2月の勝率63%とも関係していると考えられます。

とは言え、ここでの結果はあくまでも季節性に着目したものです。実は、足元にかけて数年間、1月と2月の外国人投資家の買い越しが見られにくい年も少なくありませんでした。例えば、コロナ禍になる直前の2020年の1月と2月の外国人投資家は、それぞれ1.6兆円、1.4兆円の売り越しとなりました。こうした動きを映して2020年の日経平均株価は1月が1.9%の下落、2月も8.9%安となりました。当時、まだコロナ禍前とは言え、新型コロナウイルスに感染した患者が世界的に増えて、景気や企業業績に与える影響が広がりつつありました。年が明けて外国人投資家が投資への再開姿勢を強められる季節性の場面でも、外部環境に大きな懸念要因があると実際の買い越しは難しいようです。

そうなると、季節性に沿って新春に外国人が投資姿勢を強めてくるかは、外国人の物色意欲を低下させるほどのネガティブな特殊要因などがあるのかを考える必要があります。足元では、そこまでの懸念要因は考えにくいことから、例年の1月と2月の外国人投資家の買い越し季節性が期待されると考えています。

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