吉野貴晶のクオンツトピックス

No.13
POSデータ(オルタナティブデータ)によるマクロ消費の予測

2019年10月25日号

投資工学開発室
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

投資工学開発室
髙野 幸太

ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。

POSデータでマクロの小売業販売額を予測できるか?

  • AI(人工知能)やオルタナティブデータ等と投資手法の関係性を紹介
  • 今回はPOSデータがテーマ

最近、オルタナティブデータという言葉が話題にあがることが増えています。様々な定義で使われていますが、大枠としては、「今まで使われていなかったが、昨今、利用可能になってきたデータ群」と言い換えて良いと思います。資産運用の世界では、新たな収益源(アルファと言います)を追求する上で、このオルタナティブデータの活用方法に関する研究開発が盛んに行われています。

今回は、オルタナティブデータの中から、POSデータに焦点を当ててみたいと思います。

投資工学開発室では、国内最大級のデータ提供会社であるTrue Dataから POS(販売時点情報管理)データの提供を受けて分析、活用しています。POSデータとは、皆さんがスーパーやドラッグストア等で購入した際にレジで記録される購買データが元になっています。POSデータは、日本の全ての消費をカバーしているわけではありませんが、実際の購買に基づく速報性の高いデータとして、投資の世界で研究開発が進んでいます。

  • 株式会社True Data:全国のスーパーマーケット等の消費者購買情報を統計化した日本 最大級のデータベースを提供

今回はこのPOSデータを利用して、景気指標を予測できるか、を考えてみたいと思います。

図1.データ区分の整理(過去レポート:AI(人工知能)を利用した投資手法の開発より引用)

  • マップ上の各項目とも複数の領域に跨る可能性があるが、分類案の一例として図示

POSデータ活用の流れ

1.検証の枠組み

検証の枠組みをご紹介します(図2) 。概略としては、POSデータの系列群から、小売業販売額と相関性の高いPOSデータ系列を特定して合成指標(本レポートではPOS小売指数と呼びます)を作成し、その精度を検証します。

対象経済指標は、消費に関する統計として商業動態統計における小売業販売額(前年比)です。ある月のPOSデータが、対象範囲がより広い経済指標である小売業販売額(前年比)の動きを補足できるか、を検証していきます。今回の対象である小売業販売額は、公表に1ヵ月程度のラグがあります。この公表ラグを使い、POSデータから1ヵ月先行して小売業販売額の実績値を予測できるかどうかも検証していきます。

図2.本レポートの検証枠組み

バックテストの注意点

(補足)その時分かるベースとは?

過去を振り返る(バックテストを実施する)際に重要な概念になります。景気指標は、通常公表に一か月~数カ月程度の遅れがあります。このラグがあるため、例えば10月上旬に9月分のPOSデータは集計出来ますが、一方で9月分のマクロ指標を相関の計算に使うのは妥当ではありません。これは、もし自分が10月上旬に居ると仮定した場合、9月のマクロ指標はその時点で手に入っていないためです。また、マクロ指標には速報・確報がある場合があり、今回の小売業販売額にも速報と確報が存在します。これらは過去を振り返るバックテストにおいて十分に注意しなければならない点です。今回は、上記のような未来のデータが混在しないように、毎月1ヵ月前の確報値を最新とすることにしています。
(確報を待つべきか否かは補足参照)

図3.その時分かるベースに則った分析の枠組み

POS小売指数と小売業販売額には相関があるか?

2.検証結果

直近の結果を見てみたいと思います。2019/9月までのPOSデータが揃い、かつ小売業販売額の確報値が発表されている2019/10月中旬時点を、その時分かるベースの時点とした場合における、POS小売指数と小売業販売額を並べたグラフが図4です。2系列の相関係数は0.79であり、相関ベースで見た際に両指数の動きは類似しているといえます(因果関係は考慮していません)。

  • 2014/4以降の消費税増税の影響は筆者試算値で控除済み

図4.POS小売指数と小売業販売額指数の推移

この結果だけ見ると、両指数は類似しているように見えますが、1点バックテストならではの問題を含んでいます。先述したその時分かるベースの概念で見た時に結果が違う、という点です。図4におけるPOS小売り指数は、2019/10月中旬時点をその時わかるベースとした場合に相関が高いPOSデータ系列を採用した指数であるため、過去の別時点で採用されるPOSデータ系列とは組み合わせが違う可能性があります。

(例)2019/7月中旬時点でPOS小売指数を作成すると、A系列、B系列、C系列、D系列が相関等を考慮し採用される。

一方、2019/8月中旬時点でPOS小売指数を作成すると、A系列、C系列、D系列、E系列、F系列が相関等を考慮し採用される等。

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