吉野貴晶のクオンツトピックス

No.9
クオンツとAI/機械学習の融合(モメンタム/リバーサル概論)2

2019年02月01日号

投資工学開発室
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

投資工学開発室
髙野 幸太

ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。

日本における簡単な実証

3.日本における実証例

今度は日本におけるモメンタム効果を確認してみたいと思います。先述の図4における欧米での実証では、サイズとリターン値の組み合わせである時価加重平均の6分割ポートを利用して算出していました。一方、今回は日本株において、最も単純なサイズ効果なし、3分位の等ウェイトポートフォリオにおける、中期モメンタム(Formation periodが12ヶ月、スキップが1ヵ月)の結果を図6に示します。2000年1月分からリターンを累積していますが、最終的に過去上昇ポートフォリオ(上位1/3)が過去下落ポートフォリオ(下位1/3)の下に来ています。これでは中期モメンタムと言うよりも中期リバーサルの様相を呈しています。

図6.日本における過去上昇ポートフォリオと過去下落ポートフォリオの推移(長期)

期間を区切ってみたいと思います。マーケットにおいて色々な投資手法の効果が変化したと経験則的にいわれているのが、リーマンショック前後です。また、リーマンショック前の10年間も2区間に分けて、合計3区間で同じようにモメンタム効果を確認します。図7は、リーマンショック前(1)の累積グラフです。この図では、過去上昇ポートフォリオがマイナス、過去下落ポートフォリオがプラスなので、リバーサル傾向となっています。

図7.リーマンショック前期間での検証_期間前半

日本における実証結果

図8は、リーマンショック前(2)の累積グラフになります。期間の最後にリーマンショックを含んでいます。この図では、リーマンショックまでは過去上昇ポートフォリオがプラス、過去下落ポートフォリオがマイナスなので、モメンタム傾向となっています。ただし、リーマンショックで反転し、それまでの含み益を吹き飛ばしてマイナスまで変化しています。

図8. リーマンショック後期間での検証_期間後半

さらに図9はリーマンショック後の推移になります。リーマンショック後しばらくは不明瞭な動きでしたが、再度モメンタム効果が見られます。ただし、この期間内においては2016年中頃に急激な逆回転を起こしています。今まで説明してきた、図8と図9における急激な逆回転は、モメンタム・クラッシュとして知られる現象です。このモメンタムクラッシュの影響を和らげるための研究も存在しています。
(モメンタムクラッシュについては別の機会に説明できればと思っています)

図9. リーマンショック後期間での検証

外国人投資家の動向によるモメンタム効果の説明

4.外国人投資家の保有比率の高まり

日本市場の事例では、期間を区切るとモメンタム効果に差異が見られたと思います。たまたまこの期間で区切った場合の結果である、という事も出来てしまいますが、一つ仮説をご紹介します。図10は、日本証券取引所グループが公表している、主体別の株式の保有状況を示しています。この中で、「外国法人等」に注目したいと思います。これは、外国人による日本株の保有比率の代替指標として見ることができます。グラフが右肩上がりで推移していることから、年々海外投資家の日本株保有比率は高まっています。

ここで、欧米のモメンタム効果を振りかえってみます。再掲にあるように、欧米では古くからモメンタム効果が確認されています。同じ行動原則に基づく海外投資家が日本での影響力を高めれば高めるほど、日本市場でもモメンタム効果が示現する、と説明できるかもしれません。

図10. 日本取引所グループ、2017年度株式分布状況調査

(再掲)欧米における中期モメンタム効果

AI/機械学習手法でエンハンストできるか?

5.今後の展開

次回以降も、引き続きモメンタム効果に焦点を当てた分析を継続します。これまで見てきたモメンタム/リバーサル効果ですが、日本市場における投資手法として効果を強化できないか?という点を検討します。様々な手法が考えられますが、次回はAI/機械学習を用いた手段を検討します。通常の機械学習モデルでは、複数の入力データ系列を準備してモデル構築を行いますが、いきなり応用問題から解こうとしても難しいので、最もシンプルな仕様から始める予定です。

また、投資手法としてのモメンタム効果において、他の様々な要因、例えばサイズ、マーケットの方向感、バリュー等の他の代表的指標が、モメンタム効果と関連性があると言われています。これらの要因とモメンタム効果の関係を確認し、機械学習モデルに利用する新たな特徴量(入力データ)の作成可能性を検討します。また、これらの特徴量を加えた、モメンタム効果の強化(エンハンスト)にも挑戦する予定です。
(筆者の都合で変わる場合があります)

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