吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
No.8
季節性を活かした投資尺度の利用(2)
2018年12月10日号
投資工学開発室
吉野 貴晶
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。
投資工学開発室
髙野 幸太
ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。
- 長期的には小型株効果で小型株が優位な月が多い。
- 12月から6月までは小型株が優位となる期間。
- 足元、季節性の観点では小型株優位の場面。
前回号(No.7)では投資尺度の季節性のお話をしました。12月は営業増益率やPBRの有効性が高まる傾向があるということです。3月期決算企業の第2Q決算発表が終わり、投資家の視点が来期業績に向かうなか、足元の業績モメンタムが高い銘柄の来期の行方に期待が高まります。また、これまで放置されていた低PBR銘柄に見直し買いが入ることも背景にあることをお話ししました。
さて今回はその続編です。企業規模物色に関する季節性を取り上げます。先ずは、下表を見てみましょう。分析は次の様に行っています。月次で東証1部企業を対象に時価総額を計算します。そして、時価総額が大きな方から2割の銘柄(大型株群)と、逆に小さい方から2割の銘柄を抽出します(小型株群)。次に、これら2つの銘柄群について、等金額投資を行い、翌月のリターンの差を求めます。大型株群のリターンから小型株群のリターンを引いているため、プラスなら大型株が優位だったということです。そして、2003年2月から2018年9月まで計算を行い、1月から12月までのそれぞれの月別平均値を求めて、大型或いは、小型の優位の判断をしています。
さて、結果を見てみましょう。まずは、小型株優位の月数が多いことが分かります。小型株が優位だった月は8カ月あり、全体の3分の2になっています。これは小型株アノマリー(小型株の方が株価パフォーマンスが良い)が背景にあります。大型株の多くは既に成熟企業です。このため小型の成長株と比べて長期的に高いパフォーマンスになり難くなります。一方、投資家に売り込まれて株価が下がり、時価総額が小さくなった小型株もあります。こうした銘柄は相場全体が下落する場面で解散価値(低PBR)が下支えしますが、相場上昇ではリバーサルによる上昇となるケースが見られます。
それでは、季節性の点から見てみましょう。小型株は12月から年央にかけて優位となります。一方、7月辺りから11月までは、大型株優位の期間です。この理由に関しては、会社計画の業績予想から説明されるケースがあります。大型株は会社計画が保守的となる企業が相対的に多いということです。このため、3月期決算企業の第2Q決算発表後、翌年度の業績に投資家の視点が向かうなか、保守的な決算を出すと見られる大型株が手控えられ、相対的に小型株が物色される傾向があるのです。逆に、第2Q決算発表に向けては、保守的計画からの上方修正を期待して大型株が物色されるのです。
表:12月から翌年の半ばにかけて小型株優位
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
規模の優位性 | 小型 | 小型 | 小型 | 小型 | 小型 | 小型 | 大型 | 小型 | 大型 | 大型 | 大型 | 小型 |
別の理由として、年央から相場が伸び悩む傾向があることも指摘されます。
過去を調べると相場は年央から10月にかけて調整する年が多く見られます。11月はヘッジファンドの決算月です。その前月にポジション解消が進み相場が調整するのです。その一巡後の年末には再び、相場が上昇するパターンです。こうした相場が弱含む場面で、流動性などのリスクが高い小型株は、更にパフォーマンスが厳しくなるということが、この季節性の背景です。
足元の12月からは、季節性の面では小型株優位となる時期となります。
吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
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