吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.7
季節性を活かした投資尺度の利用(1)

2018年11月05日号

投資工学開発室
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

投資工学開発室
髙野 幸太

ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。

  • 11月は、投資尺度の有効性に関してターニングポイントとなりえる季節。
  • 配当利回りの有効性は余り季節性が見られなかった。
  • 過去の11月はPER⇒PBRに投資尺度の効果がシフト。

株式市場で良く知られた季節性アノマリーにハロウィン効果というのがあります。ハロウィン後、つまり11月から相場が堅調になるというものです。これには様々な要因がいわれていますが、11月に決算を迎える多くのヘッジファンドなどが、その前月にポジションの手仕舞いなどを行うため、一段落する11月から相場が回復するからなのかもしれません。ところで、今回とりあげるのは相場全体の季節性ではありません。投資尺度を使う時の季節性のお話です。投資尺度にも幾つかの季節性があります。そして、11月はそれらの季節性の幾つかがターニングポイントを迎えるため確認が必要です。

先ずは、下表を見てみましょう。ここでは、投資家が良く注目する代表的な5指標を取り上げました。分析は次の様に行っています。月次で東証1部企業を対象に投資尺度を計算します。そして、それぞれについて情報が魅力的な方から2割の銘柄と、逆に魅力が小さい方から2割の銘柄を抽出します。例えば、表の最も下の行の配当利回りであれば、高い方から2割と低い方から2割の銘柄です。そして、これらの2つの銘柄群について、等金額投資を行い、翌月のリターンの差を求めています。ですから、リターンがプラスだったら、配当利回りが高い銘柄をロングして、逆に、配当利回りが低い銘柄をショートする戦略をとっており、その尺度が効果的だったということです。ここでは、2003年2月から2018年9月までの平均を計算しました。なお、利益や配当などの数値は東洋経済新報社の予想利益を使用しています。

配当利回りに関しては、“配当取り季節性”というのが市場でいわれます。これは3月や9月に配当利回りの投資尺度に注目した投資が効果的というものです。3月期決算企業では、投資家は中間配当と期末配当を、それぞれ9月と3月に受け取ることができます。配当取り季節性は、これに注目した投資家の買い需要が背景にあるといわれています。表を見ると確かに3月と9月はリターンがプラスになっています。ただ、それほど大きいともいえません。配当取り季節性は意外にそれほど強いものでもないようです。配当利回り投資をする場合には、季節性をそれほど神経質に考える必要がないのかもしれません。

表:月別の投資指標の有効性の傾向

注1)利益と配当に関する情報は全て予想値を用いた。それ以外は実績値。連結決算優先。 注2)表中赤字はマイナス、緑字はプラス。斜体は月次で比べて上位2つの指標。 注3)分析期間:2003年2月から2018年9月までの平均値。ユニバース:東証1部。 出所:東洋経済新報社、日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成。
  グロース バリュー
営業増益率 ROE PBR PER 配当利回り
1月 1.4% -1.2% 1.8% -0.6% 0.1%
2月 -0.1% -0.8% 1.7% 0.1% -0.3%
3月 1.3% 0.0% 1.7% 0.4% 0.1%
4月 0.1% 0.4% 1.4% 1.1% -1.4%
5月 0.7% 0.5% 0.2% 0.5% 0.6%
6月 2.2% -0.9% 1.7% -0.2% -0.3%
7月 -0.8% 0.4% 0.4% 1.0% 1.4%
8月 -0.9% 0.0% 0.1% 0.3% -0.1%
9月 0.6% 0.3% 0.3% 0.7% 0.3%
10月 0.5% 0.7% -0.3% 0.8% -0.3%
11月 0.4% -0.2% 0.4% 0.0% 0.2%
12月 1.7% -0.6% 1.2% 0.3% 0.1%

次に、バリュー指標で典型的なPBRとPERを見てみましょう。PERは10月まで効果が見られます。一方、11月から新年の前半に向けてPBRの有効性が高まります。

3月期決算企業の第2四半期の決算発表が終わる11月になると、年度の半分が過ぎて、投資家の視点は当年度から、翌年度の利益にシフトしていきます。とはいえ、来年度はまだ5カ月も先です。そんな先の利益予想は難しいと考えられます。であれば、利益をベースとする企業評価尺度のPERからも、投資家の目が離れがちになります。そのため、もう1つの代表的な企業価値である純資産価値をベースとするPBRが見直されるのかもしれません。

最後にグロース指標に目を向けてみましょう。11月から再び、営業増益率の有効性が高まります。前述しましたが、11月は、3月期決算企業の第2四半期の決算発表が出そろいます。投資家の視点が当年度から来年度に移っていくなか、足元の業績モメンタムが高い銘柄は、将来も持続した伸びが期待されるため増益率が高い銘柄に注目が集まるのです。

一方、11月から翌年の年度末に向けてROEは有効性が低迷します。ROEは株主価値を端的に示す指標です。3月期決算企業の本決算発表時期の4月から5月で、決算の数値が明らかになるタイミングで、株主価値への注目が高まるようです。

今回は、多くの投資家の方の注目度合いが高い投資指標を対象に、季節性を取り上げました。次回は、大型株投資と小型株投資の季節性をとりあげていく予定です。

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