アナリストの眼

「果てしない航海」を船長と語る

掲載日:2016年06月28日

アナリスト

投資調査室 峯嶋 利隆

「森」を見ることが大事

我々株式アナリストは、企業が将来に渡って生み出すであろう予想キャッシュフローをベースに企業価値を測定し、それを銘柄選択の際の重要な判断材料としています。そして、将来キャッシュフローを予測する際には、短期業績の予測精度を高めることよりも、長期業績の持続可能性(サステナビリティ)についての確信度を高めることを強く意識しています。企業価値の大半は、市場コンセンサス予想(通常は来期までの2年分)や会社が公表している中期経営計画(通常は3年分)等ではカバーしきれない、その先の将来キャッシュフローに由来するものだからです。たしかに、決算発表前後などは実績値や会社ガイダンス値のブレ等によって株価は動いてしまいます。ただ、その場合でも株価が大きく変動するのは、短期業績のブレが一過性では済まず、長期業績予想の見直しを迫るようなものである場合が多いはずです。

短期業績予想は長期業績予想の発射台となりますので、決して軽視すべきものではありませんが、短期の予測精度を上げることにばかり気を取られ(「ショートターミズム」)、長期予想の視点が疎かになると、企業価値測定の観点からは「木を見て森を見ず」になりかねません。

予知能力がなくても、「対話」がある

では、企業価値の大半を決める長期のキャッシュフローはどのように予測すればいいのでしょうか。短期業績ですら正確な予測は難しいのですから、長期業績の予測ともなればエスパーのような予知能力でも必要となる気がしてきます。しかし、残念ながら(通常)我々には、将来のことを正確に言い当てる予知能力は備わっていません。

我々は、経営者との「対話」こそが、それを補う強力な手段になりうると考えています。経営者と向き合い真剣に対話すれば、企業のキャッシュフロー創出能力がどの程度のものか、また、それは将来に渡って持続可能なものかという観点から、長期業績予想の確信度を高めることはできると考えているからです。

「果てしない航海」の成否は、船長と対話すればわかる

経営戦略論において、しばしば、競争が激しい市場を「レッドオーシャン」、競争が穏やかな市場を「ブルーオーシャン」と表現することがあります。たしかに、会社を「船」に、市場を「海」にたとえると、企業経営(「航海」)を理解しやすくなるような気がします。ちなみに我々が考える企業経営は、ゴーイングコンサーン(継続企業)を前提としていますので、これを正確に表現しようとすると「果てしない航海」ということになるのでしょうか。

船(会社)のオーナー(株主)は、しかるべき船長(経営者)を選び、その指揮のもとで船を遥か彼方にある目的地に向かわせます。どこの海(事業ドメイン)を、どのような船(ビジネスモデル)で進むかで、ベースの巡航速度(収益性や成長性)が決まります。また、しかるべき運航方針(経営理念・経営戦略)や羅針盤(経営計画等)は備わっているか、巡航速度を維持・向上するための取り組み(成長投資等)を怠ってないか、乗組員(従業員)を教育し士気を高めているか、なども巡航速度に影響する要素となります。重要なことは、ここに挙げた要素のほとんどは、船長次第で決まるものだということです。

たしかに、実際の運航速度は、その時々の波や風の状態(マクロ経済や市場等の外部要因等)などに左右されてしまうものです。それでも、荒波はいつしか鎮まるものですし、逆風もいつしか風向きが変わるものです。長い目で見たときの航海の成否を決めるのは、やはり船自体の「巡航速度」(持続可能な成長率)なのです。そして、この巡航速度を大きく左右するのが、船長(経営者)が掲げる運航方針であったり、作戦であったり、リーダーシップなのです。

これを企業経営の観点で改めて表現しなおしますと、企業業績は短期的には外部要因に左右されることも多いが、長期的にはそれ以上に、経営理念や経営戦略、経営者の資質(リーダーシップや執行力)などの内的要因によって決定付けられるということだと思います。この考えに従えば、経営者との対話を通じて会社に対する理解を深めることによって、長期業績の持続可能性の評価もより的確にできるようになるはずです。

【イメージ図】「果てしない航海」(=会社経営)の成否を分ける要因

地方4市の勢いが加速グラフ
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