金融市場NOW
デンマーク・カバード債券の動向と今後の注目点について
2021年12月22日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
欧米金利の動向に左右される展開が続く
- 8月上旬に1.17%まで低下した米長期金利(米国10年国債利回り)は、インフレ懸念の高まりや米国の早期利上げ観測から再び上昇基調を強め、10月下旬には1.70%まで上昇しました。
- これまで『物価上昇は一時的』との認識を貫いてきたパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長も、高止まりするインフレに警戒感を示し、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、テーパリング(量的緩和縮小)加速を決定しました。市場では、今回のFOMCに対する大きな混乱は見られず、金利上昇は一旦落ち着き足元では1.40~1.50%台で推移しています(グラフ1)。
- 欧州では、新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、景気回復期待が高まっていることや、欧州中央銀行(ECB)による資金供給策の縮小が意識されたことなどから、欧州長期金利(ドイツ10年国債利回り)も緩やかな上昇基調で推移してきました。しかしECBのラガルド総裁は、『インフレ率は短期的に高止まりが見込まれるが、2022年中に低下する公算が大きい』と述べ、『(物価を2%程度で安定させるためには)まだ金融緩和が必要』との認識を示しています。
- 10月中旬に再びマイナス0.1%を超える水準まで上昇した欧州長期金利は、11月上旬以降、マイナス0.2~0.4%前後で推移しています(グラフ1)。
ECBの金融緩和継続が見込まれ、大幅な金利上昇は想定しにくい
- 経済活動の正常化にともなうインフレ懸念を背景に、米国がテーパリングを開始し、世界的に金融緩和策の出口が意識され始めています。しかし、ECBは金融緩和継続の必要性を改めて強調するとともに、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)終了後も従来の債券購入プログラムによる国債買い入れを継続する方針であることなどから、当面、慎重に金融政策の運営を行っていくことが想定され、今後、欧州債券市場において⼤幅な⾦利上昇は⾒込みにくいと考えられます。
- デンマーク・カバード債券は、一般に、金利上昇局面では期限前償還が発生しにくくなるため、デュレーション*が長くなるという特性があります。急激な金利上昇局面においては、デンマーク・カバード債券のこの特性が大きくマイナスに働きます。足元では、相対的にデュレーションの長い1.0%債や1.5%債を中心にアンダー・パー(債券価格が額面を下回る状態)で推移しています(グラフ2)。
- 金利の変動に対する債券の価格変動の大きさを表す。一般に、デュレーションが長い債券ほど金利の動きに対する債券価格の感応度は大きくなる。
供給過剰による債券価格への下押し圧力は徐々に逓減へ
- デンマークでは、新型コロナウイルスの感染防止策のための在宅勤務や空間確保などを理由に、より大きな家屋への住み替えや別荘の購入需要が高まりました。金利が上昇基調を強め始めた2021年3月以降も住宅ローンの借入れニーズは減退することなく、デンマーク・カバード債券の月間発行額は例年並みの水準で推移してきましたが、10月の月間発行額は直近のピークである4月の発行額の1割程度にとどまっています(グラフ3)。
- 足元では、欧州において再び新型コロナウイルスの感染が広がっています。デンマークの12歳以上のワクチン接種率は80%を超えており、一部では行動制限が残るものの、経済活動は徐々に正常化に向かいつつあります。今後は、感染防止策のための過度な住宅需要は抑制されることが予想されており、供給過剰(債券発行量の増加)による債券価格の下押し圧力は徐々に弱まっていくことが予想されます。
デンマーク・カバード債券市場を左右する外国人投資家の存在感
- かつて、デンマークの年金基金や保険会社などがデンマーク・カバード債券の大半を保有していました。主要国の金融当局による長期にわたる低金利政策などを背景に、デンマーク・カバード債券は、高い利回りを求める海外投資家などの注目を集めることとなりました。
- 金利上昇の影響により、足元のデンマーク・カバード債券は下落基調となっていますが、長期で見た場合、概ね上昇基調で推移してきました(グラフ4)。堅調だった背景には、外国人投資家を中心とした資金流入が要因として考えられます。
- デンマーク中央銀行によれば、デンマーク・カバード債券の外国人投資家の保有率は2013年以降に急増し、2021年4月時点での外国人投資家の保有率は約34%となっていることから(グラフ5)、デンマーク・カバード債券市場で外国人投資家は影響力のある存在となりつつあるとみられます。
米国投資家(米ドル債運用者)から見たデンマーク・カバード債券
- 高格付け債の代表例である米国国債と比較すると、2015年以降の米国の利上げ局面(グラフ6 局面2、3)では、米ドルとデンマーク・クローネ間の短期金利差が拡大したため、ヘッジプレミアムにより、デンマーク・カバード債券の利回り(米ドルヘッジベース)は大きく上昇しました(グラフ6)。
- しかし2019年以降、米国が利下げを開始し、また、新型コロナウイルスによる経済への影響を軽減するため、政策金利をほぼ0.0%まで引き下げたことから、ヘッジプレミアムは大幅に縮小しています(グラフ6 局面4)。
- FRBは2021年11月よりテーパリングを開始し、2022年以降、順次利上げを開始することが予想されています。今後、米金利が上昇すれば、再びヘッジプレミアムの拡大が期待されます。
国内投資家(円債運用者)から見たデンマーク・カバード債券
- 日本では、長らく低金利政策が続いています。相対的な安全資産である国内債券に代わる資産として、為替リスクを低減しつつ、相対的に高い利回りが期待できる“ヘッジ付き外債”に対する投資需要が高まりました。
- 日本と同様に欧州も低金利環境にあったことから、欧州の国債の利回りも低水準で推移してきましたが、米国債は日本や欧州対比で比較的高い利回りを維持していました。
- 2015年以降、米国の利上げにより為替ヘッジコストが上昇したことから、為替ヘッジ後の米国債の利回りはほぼマイナス圏での推移となりました(グラフ7 局面3)。
- 一方、ヘッジプレミアムが得られ、為替ヘッジ後も1.0%以上の利回りを獲得できるデンマーク・カバード債券は、リスクを抑えながら相対的に高い利回りを得たい日本の投資家から注目を集めました。
日米欧の金融政策と今後のデンマーク・カバード債券投資
- 米国は2021年11月よりテーパリングを開始し、2022年中旬頃より利上げ開始の可能性があるとみられています。一方、欧州や日本では、当面マイナス金利が続くことが予想されており、今後は、かつてのように米国と日本、欧州間で再び金利差が拡大することが予想されます(グラフ8)。
- ECBはPEPP終了後も、従来の債券購入プログラムによる国債買い入れを継続する姿勢を示しています。足元のインフレ動向には注意が必要ではあるものの、欧州域内のインフレ目標の達成が見込まれないなかでは、欧州の利上げは当面実施できないものと考えられます。
- 金融緩和に前向きな欧州金融当局のスタンスを背景に、デンマーク・カバード債券を含む欧州債券は、次第に下値を固めていくことが予想されます。
- また、今後欧州域内と米国などの海外との金利差が拡大した場合、ヘッジプレミアムの上乗せにより高い利回りが期待できるため、デンマーク・カバード債券は、相対的に安全で、高い利回りを享受したい外国人投資家などから選好されることが期待されます。
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