金融市場NOW

欧州復興基金の開始は遅れる見込み

2020年10月15日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

一部の東欧諸国は利用条件に「法の支配」の尊重を含めないよう主張

  • 2020年7月に合意した欧州復興基金の開始時期は目標とされている2021年1月には間に合わない見込み。
  • リスボン条約に規定されているEUの理念にある「法の支配」の尊重を利用条件に含めるか否かを巡って、一部の東欧諸国が利用条件に含めないように主張しており、足元の協議は難航中。

欧州復興基金の開始時期は後ずれする見込み

2020年7月のEU(欧州連合)首脳会議において、5日間にも及ぶ協議を経て合意した欧州復興基金ですが、目標とされている2021年1月1日には開始できない可能性が高まってきたと言われています。

「法の支配」を巡り協議が難航

7月の首脳会議の際には補助金額と融資額の割合を巡って、「管理したい」倹約4カ国(オランダ、スウェーデン、デンマーク、オーストリア)と、「自由に使いたい」支援を受ける側の国(主に南欧諸国)の溝が深かったことが、合意に時間がかかった最大の要因と言われています。

足元の混乱の背景には「法の支配(Rule of law)」の問題があるようです。7月の協議では対象国が利用条件から逸脱した場合には資金提供が中止されることまで決まった一方、具体的な手続きについては定められませんでした。

表1:欧州復興基金を巡る意見の対立

2020年7月時点の対立
返済が不要な補助金と返済が必要な融資の割合について、財政が健全な北部(オランダ、オーストリア等)と財政が厳しい南部(イタリア、スペイン等)で意見が相違→ドイツ・フランスが意見調整を行い、妥結
2020年10月時点の対立
支援対象国が利用条件から逸脱した場合には資金提供が一時的に停止されるが、「法の支配」の尊重を利用条件に含めるか否かについて、一部の東欧諸国が含めないように主張→足元で協議を行っているが難航中

出所:各種報道をもとにニッセイアセットマネジメントが作成

協議は難航しているものの市場は楽観的

グラフ1:ドイツ・イタリア10年国債推移

  • 出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成
  • EU全体の基本条約であるリスボン条約第2条に「EUは人間の尊重、自由、民主主義、平等および法の支配の尊重、ならびに少数者に属する人々の権利を含む人権の尊重という価値を基礎にする」と定められています。しかし、一部の東欧諸国では政府の権限を拡大する法律改正を実施するなど、法の支配が尊重されているとは言えない政治体制となっています。

    「法の支配」の尊重というEUの理念に反する国には欧州復興基金からの資金提供を停止するべきとの意見もありますが、一部の東欧諸国は「法の支配」の尊重を利用条件に含めないよう主張しています。欧州復興基金はEU27カ国全会一致の承認が必要となっていることから、開始時期が後ずれするリスクが高まってきたものと思われます。

    一方、金融や政治不安等があった場合に拡大することの多い独伊スプレッド(利回り差)は安定しています(グラフ1)。欧州復興基金の開始が見通せなくなれば、スプレッドが拡大することも想定されますが、現在のスプレッドからはその可能性は低いとみられているようです。開始時期の遅れは想定されるものの、とん挫する可能性は低いものと考えられます。

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