吉野貴晶のクオンツトピックス

No.3:AIを使った将来のPBR効果の予測
デフレ脱却と低PBR効果への期待の行方は?

2018年01月30日号

投資工学開発室
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

投資工学開発室
髙野 幸太

ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。

ニューラルネット予測では低PBR効果復活はもう少し先となろう

  • ニューラルネットを使った低PBR効果の方向性予測は精度が高いと見られる。
  • 本格的な低PBR効果の復活はデフレ脱却の方向が見えてきてからと考えられる。

最近、様々な分野でAI(人工知能)を使った予測が注目されています。投資の分野でも、AIのモデルを使って、株式市場の先行きや市場心理を予測するケースも増えてきました。今回はAIを使った予測の試みについての簡単な例を紹介しましょう。

1月23日の日経平均は1991年11月15日以来、およそ26年ぶりに24,000円台を回復しました(24,124円) 。為替相場の不透明感は拭えませんが、市場ではデフレ脱却に向けた期待も見られるようになり、中長期的な株高が期待されます。ところでデフレ脱却場面で、特に注目される銘柄は何でしょうか?資産価格が上昇するステージですから、保有資産が多い企業とっては、その資産の評価額が上がるため連動して企業の評価も高まります。ですから、企業の純資産で見て割安な低PBR株などは、純資産評価の上昇期待から、デフレ脱却場面で特に期待されます。そこで、3カ月先までのPBR効果を、AIの手法を使って予測してみました。

モデルの内容は図1に示しています。低PBR効果に影響を与えると見られる、経済変数を入力して、将来の低PBR効果を予測するものです。低PBR効果の計算は次のように求めています。東証一部企業を対象に月末でPBRの低い割安な方から2割に該当する銘柄に3カ月間の等金額投資をする一方、PBRが高い割高な方から2割の銘柄に3カ月間の売りの投資(ショート)をした場合の収益率です。AIには様々な分析手法がありますが、ここでは代表的なニューラルネットワークを用いました。ニューラルネットワークは人間の脳の仕組みから着想を得たもので、脳機能の特性のいくつかをコンピュータ上で表現するために作られたものです。

図1:低PBR効果を予測するニューラルネットワークの仕組み

出所:ニッセイアセットマネジメントが作成

入力するデータとしては、11個の経済関連のデータとしています。そして、出力値は将来(3カ月先)の低PBR効果です。

こうしたAIを使った予測には、どの程度の精度があるのでしょう?図2は、過去の半年間の予測値と実際の低PBR効果の関係を見たものです。一見するとグラフは連動していないようにも見えます。しかし、予測値がプラス(つまり低PBR効果が予測される)となった月に対して、実際の低PBR効果がプラスとなったかという関係を見ると、6回のうち4回が正解しています。比較的高い推計ができたと見られます。

それでは、このAIモデルを使って2018年の1-3月の低PBR効果を予測してみましょう。結果はマイナス値(-1.3%)の予測となりました。低PBR効果の本格的な復活は、デフレ脱却の現実感がより高まってからなのかもしれません。

今回は、11個のデータを使ったシンプルなニューラルネットワーク分析の一例を紹介しました。AIはビックデータを処理するのに、優位性を発揮できるものです。低PBR効果に影響があると見られる、沢山のデータを入力した予測モデルへの発展も考えられます。

図2:低PBR効果のAIからの予測値と実際ープラスとマイナスの方向性の予測精度は高いー

出所:東京証券取引所のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成

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