吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.28
外国人保有比率は銘柄選別に有効か(2)

2021年11月19日号

投資工学開発部
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

  • 外国人の保有比率が将来増える銘柄の特徴を過去の実績から探る。
  • 将来、外国人保有比率が高まる銘柄はバリューエーションが多少高くても、高ROE銘柄の傾向。

前回のレポートでは“外国人保有比率が高まった銘柄に投資することで高い収益が得られるのか”の検証結果を紹介しました。保有比率が高まった“後”の投資では高いリターンが得られにくく、保有比率が“増えていく過程”で高いリターンが実現していることが分かりました。であれば、将来、外国人保有比率が増えそうな銘柄に投資すれば、その後の外国人保有比率の上昇とともに、高いリターンも期待できそうです。そこで、今回は将来、外国人が保有を増やしていく銘柄にはどのような特徴があるのかを調べて見ました。

分析は次の様に行いました。まず、前回同様にTOPIX500のうち、3月期決算企業を分析対象としました。有価証券報告書を基本とする日本経済新聞社のデータベースから外国人保有比率を計算し、前年値から変化の上位と下位の銘柄が、“前年”時点でどのような特徴を持っていたのかを明らかにします。具体的には、前述の上位20%と下位20%企業を抽出して、ROEなどの様々な投資指標の平均値を求めます。これらの平均値を比較すれば、外国人の保有が増えた企業と減った企業の投資指標が、どのように異なっていたかを捉えることができます。このような分析を2006年3月期末から2021年3月まで行い、平均的な傾向を見ました。

結果は表1に示しています。分析から出力された数字を解釈して、外国人の保有比率が上昇した銘柄が下落した銘柄と比べて、どのような特徴があるのかを“言葉”で表現しています。なお、ここで用いている各投資指標は取得可能な財務情報を用いており、予想値に関しては東洋経済新報社予想を用いました。
例えば、収益性に分類される指標のROEに関しては、高ROE銘柄の方が外国人の保有が高まる傾向が見られました。

表1:外国人保有比率が増えた銘柄の減った銘柄に対する投資指標の特徴

収益性 成長性 割安性 業績モメンタム 株価変動
ROE 営業増益率 PBR PER リビジョン リバーサル/モメンタム
割高 割高 リバーサル
  • 注1:検証期間は、2006年3月から2021年3月までの各年における外国人保有比率の変化に関する分析に対応した期間
  • 注2:TOPIX500のうち3月期決算企業を対象
  • 注3:外国人保有比率は有価証券報告書をベースとする日本経済新聞社のデータを用いた。
  • 注4:各年度の決算期末で前年度末と比較し、外国人保有比率の差を基準に上位20%までに該当する銘柄に関して前年度末時点で対象とする投資指標の平均値と、同様に下位20%までに該当する銘柄の平均値を算出。それら平均値の違いから判断した。
  • 出所:東京証券取引所、東洋経済新報社と日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成

これは外国人が投資先の選別をする上で、ROEへの注目が高いと一般に言われていることにも整合します。また、PERやPBRに関しては、むしろ割高傾向の銘柄の保有比率が高まる傾向がありました。これは高ROE銘柄はPERやPBRの面で割高にまで買われている傾向があるからと考えられます。つまり外国人はある程度、バリュエーションが高くても、ROEが高い銘柄に注目するということが分かります。

またリビジョンや営業増益率など将来の業績トレンドが好調な銘柄の保有比率が高まる傾向も見られました。株価変動の面では、過去12カ月リターンで見るとリターンリバーサルの物色傾向が見られました。

ところで、このような傾向について厳密に統計的な検定をすると、明確な有意差はありませんでした。外国人投資家全体の日本株買いが増えている局面では、保有比率が高まる銘柄の特徴に明確な傾向が見られるようですが、逆に売り越しが強い時には、これまで保有していた高ROE銘柄などが売られる傾向もあるためだと考えられます。こうした点には留意が必要ですが、長期的な外国人保有比率の増える銘柄の傾向を捉えておくことは銘柄選別の上で有用な情報と考えられます。

最後に、以下では参考情報として直近年度末の分析結果である2021年3月までの1年間における外国人保有比率が増えた上位20%の平均値の情報をベースに、外国人保有比率が今後、増えると見込まれる(1年後に外国人保有比率の変化が上位20%までとなる)銘柄の2021年9月末時点でのROEを計算してみましょう。

結果は表2となりました。1年後に外国人保有比率が高まる(上位20%までとなる)銘柄は平均して12.1%の予想ROEが期待されます。PBRやPERは比較的割高とまで言われる水準(それぞれ2.8倍と20.3倍)でも、10%を上回る高いROEを重視する外国人の物色が考えられる結果となりました。

表2:外国人保有比率が増えた(上位20%までの)銘柄の属性を2021年9月末ベースの投資指標に適用して計算した場合

  • 注1:TOPIX500のうち3月期決算企業を対象
  • 注2:外国人保有比率は有価証券報告書をベースとする日本経済新聞社のデータを用いた
  • 注3:分析対象時点は2021年3月の外国人保有比率の変化に関する投資指標の算出(2020年3月)を2021年9月時点に適用して対応。2021年3月決算期末で前年度末と比べた外国人保有比率の差を基準に上位20%までに該当する銘柄に関して前年度末時点で対象とする投資指標の平均値を、2021年9月時点での状況とした場合の平均値に変換して算出。
  • 注4:投資指標は2021年9月末現在。ROEとPERの算出に用いる利益は今期と来期に関して将来1年となるように按分。PBRは実績値。
  • 出所:東京証券取引所、東洋経済新報社と日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成
  上位20%の平均値
収益性 ROE 12.1%
割安性 PBR 2.7倍
PER 20.3倍

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