吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.27
外国人保有比率は銘柄選別に有効か(1)

2021年10月28日号

投資工学開発部
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

  • 外国人の保有比率が増えた銘柄の事後の投資のパフォーマンスは劣位する傾向。
  • 将来、外国人保有比率が高まるであろう銘柄に投資する必要がある。

菅義偉前首相が総裁選に不出馬を表明して以降、新政権への期待から9月半ばにかけた上昇相場、その後、誕生した岸田内閣の支持率が低かったことから期待一巡での10月6日までの株安。そして、10月31日衆院選投票日に向けて、”総選挙前の相場は高い”というアノマリーを背景とした株価の反発など、足元の相場変動の主導役は外国人投資家と見られています。“外国人投資家の買いが増えると相場が上がり、売りが増えると相場が下がる”という状況は、過去を振り返ってもみられる傾向です。MONEY PLUSの連載「日経平均3万円突破は外国人投資家の動きが主因?株式売買傾向と“その後”を検証」ではこうした外国人買いと相場全体の変動との関係を確認しました。本レポートでは個別銘柄を対象とした分析を紹介します。レポートは2回に分けて「外国人保有比率は銘柄選別に有効か」を取り上げます。初回では、外国人投資家の保有が増えた銘柄のリターンは高いのかを分析します。

結果から紹介しましょう。図表1中の値は▲2.0%となりました。これは外国人の保有比率が増えた銘柄の方が、減った銘柄に対して、リターンが劣っていることを意味します。一般的に、外国人は小型株と比べて大型株での保有が大きい傾向があるため、TOPIX500の3月期決算企業を対象にしています。有価証券報告書を基本とする日本経済新聞社のデータベースから外国人保有比率を計算し、その上位と下位の銘柄のパフォーマンスがどの程度違うのかを分析してます。

具体的な計算手順ですが、 2000年3月期末と2001年3月期末の有価証券報告書から外国人保有比率を計算し、保有比率が上昇した企業の順から上位20%と下位20%の企業を抽出します。上位20%の銘柄は外国人保有比率が1年間で増えた銘柄、逆に下位20%は減った銘柄と捉えられます。

図表1:外国人保有比率が増えた銘柄と減った銘柄のその後のスプレッドリターン

  • 注1:検証期間は2001年3月期決算以降の決算期に対応する企業のデータ対象に2021年03月まで。
  • 注2:TOPIX500のうち3月期決算企業を対象
  • 注3:外国人保有比率は有価証券報告書をベースとする日本経済新聞社のデータを用いた。
  • 注4:3月決算期末で分析対象とする情報を基準に上位20%までに該当する銘柄の等金額投資ポートフォリオから下位20%までに該当する銘柄の等金額ポートフォリオのリターンを分析対象期間(決算期末から1年間と、3年間)で算出して引く。
  • 注5:p値はスプレッドリターンが0%であるという帰無仮説が成立すると仮定した場合の統計量で、p値は両側確率。
  • 出所:東京証券取引所と日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成
  1年間 3年間
比率の変化 1年前との差 -2.0% -3.8%
3年前との差 -4.1% -14.1%

次に上位20%の銘柄に関して、計算の翌年となる2001年3月から2002年3月までの1年間のリターンを計算して平均します。同様に下位20%でもリターンの平均を求めます、この差を“スプレッドリターン”と呼びます。最後に、このようなスプレッドリターンを2021年3月まで求めて、それらの平均値を計算した結果が、▲2.0%です。これは外国人の保有比率が増えた銘柄の方が、減った銘柄に対して、リターンが劣っていることを意味します。3年間の平均でも▲3.8%でした。外国人保有比率の差を3年前と比較したケースでも、その後1年間、3年間のリターンが何れもマイナスとなりました。ここから見ると、外国人の保有が増えた企業に投資するという投資方法では収益が得られないことが分かります。

では外国人投資家の買いは個別銘柄の選択にはプラスに働かないということでしょうか。リターンの対象期間を変えて分析して見ましょう。図表1では”その後”のスプレッドリターンで検証しましたが、今度は“同じ期間”のスプレッドリターンを見てみたいと思います。例えば、分析の起点となる2001年3月期末の各社の外国人保有比率を使うところまで同じですが、使用するリターンを、その保有比率の差を計算したのと同じ期間、つまり2001年3月末までののリターンを使って、スプレッドリターンの平均を求めます。結果は図表2にある通り、+23.1%と大きい値となりました。統計的に有意であるかの観点で、p値がほぼ0%となっていますが、これは、“外国人保有比率が増えた銘柄のリターンは、減った銘柄と比べて有意にプラスが大きい”ことを示しています。外国人保有比率の3年間の差のケースでも、同様の結果となりました。(+47.5%)。

これらの図表から分かることとして、外国人投資家の買いが増えて保有比率が高まったことを確認した後で投資しても期待される投資収益が得られないことです。将来、外国人の保有が増えると期待される銘柄に投資することが重要となります。次回は外国人投資家の将来の保有が増える銘柄にはどのような特徴があるのかを取り上げます。

図表2:外国人保有比率が増えた銘柄と減った銘柄の同じ期間のスプレッドリターン

  • 注1:検証期間は2001年3月期決算以降の決算期に対応する企業のデータ対象に2021年3月まで
  • 注2:TOPIX500のうち3月期決算企業を対象
  • 注3:外国人保有比率は有価証券報告書をベースとする日本経済新聞社のデータを用いた。
  • 注4:3月決算期末で分析対象とする情報を基準に上位20%までに該当する銘柄の等金額投資ポートフォリオから下位20%までに該当する銘柄の等金額ポートフォリオのリターンを分析対象期間で算出して引く。
  • 注5:p値はスプレッドリターンが0%であるという帰無仮説が成立すると仮定した場合の統計量で、p値は両側確率
  • 出所:東京証券取引所と日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成
  1年間 3年間
平均値 t値 p値 平均値 t値 p値
比率の変化 1年前との差 23.1% 10.0 0.00%
3年前との差 47.5% 6.5 0.00%

(参考)

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