吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.22
バリューとグロースのミクロ・サプライズ指数

2021年06月01日号

投資工学開発部
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

  • バリュー株とグロース株のミクロ・サプライズ指数はともに上昇。
  • 過去、バリュー株とグロース株のミクロ・サプライズ指数の差と、バリュー指数÷グロース指数が連動しているが、これらの結果からは、目先、バリュー優位が示唆される。

2020年度3月期の決算発表シーズンが終わりました。空運業などコロナ禍の影響を大きく受ける業界と、そうでない業界の間で好不調の格差が大きかったとはいえ、東証1部全体でみれば、2020年度第3四半期(2020年9月-12月期)から増益に転じた流れが、第4四半期(2021年1月ー3月期)で更に強まる傾向でした。特にアナリストの事前コンセンサスを上回る決算を発表した企業が多く、市場予想を上回る業績の回復が見られているようです。そこで、事前コンセンサスと実際の決算結果を比較するミクロ・サプライズ指数を使って足元までの傾向を見てみましょう。

同指数は四半期で行われる決算発表の時に、営業利益の実績値が、事前のアナリスト予想より大きく上回って着地した銘柄数から、大きく下回って着地した銘柄数を引き、その数値を分析対象の銘柄数で割って求めています。グラフが0%より上方にあることは、営業利益の実績値が、事前のアナリスト予想より上方で着地した銘柄が多かったことを表します。ここではRussell/Nomura 日本株インデックスのバリュー銘柄とグロース銘柄に分けて、ミクロ・サプライズ指数を計算してみました。どちらの区分に該当する銘柄がコンセンサスに比べて上方サプライズしたかの傾向を分析してみたいと思います。

図1:バリューとグロース銘柄別のミクロ・サプライズ指数とTOPIX

  • ・分析期間は2020年4月から2021年5月まで。ただし5月の値は、概ね3月期決算発表が終わった5月14日をベースとする。
  • ・東証1部企業のなかで、セルサイドアナリストが3人以上フォローしている銘柄を対象。
  • ・アナリスト予想の平均+標準偏差を基準としており、これを上回って実績の営業利益が着地した銘柄数をカウントし、同様にアナリスト予想の平均ー標準偏差を下回って営業利益が着地した銘柄数をカウント。
  • ・バリュー銘柄とグロース銘柄は、Russell/Nomura 日本株インデックスのバリューとグロースの区分を用いた。各銘柄に関して、バリューとグロースのどちらの数値(ウエイト)が高いかで、バリューとグロースの何れかに所属するかを判断した。
  • 出所:IFISと東証のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成

ミクロ・サプライズ指数のトレンドは、バリュー、グロースともに上昇しています。これに連動して株式市場全体を示すTOPIXも上昇してきました。足元を見ると図1中の〇印に示されるように、ミクロ・サプライズ指数が下がり、TOPIXもそれに連動して下落を見せています。コンセンサスを上回る業績サプライズの傾向が一服したとも見られます。しかし、引き続き0%を大きく上回っていることは注目されます。

そして、バリューとグロースでは、バリューの方がサプライズ指数が良好です。この差をより見やすくするために、図2ではバリューのサプライズ指数からグロースを引いたグラフを見てみましょう。この差が0%を上回っていると、グロース株に比べて、バリュー株の方がコンセンサス予想対比で上振れた銘柄が多いことを示します。また、バリュー指数÷グロース指数の推移も重ねてみました。バリュー指数÷グロース指数はグラフが上昇すると、バリュー株がアウトパフォームしたことを示しています。

足元で、バリュー株が優勢となった背景として、ミクロ・サプライズ指数の差が上昇していることから分かる通り、バリュー株の方が良好な決算となった銘柄が多かったことが挙げられると考えています。また、ミクロ・サプライズ指数の差のグラフの底が、バリュー指数÷グロース指数の底である2020年11月に1ヵ月先行していることが注目されます。足元のミクロサプライズ指数の差の動きから見て、今後もバリュー株が優勢の傾向が続くのかもしれません。

図2:バリューとグロースのミクロ・サプライズ指数の差とバリュー指数÷グロース指数

  • ・分析期間は2020年4月から2021年5月まで。ただし5月の値は、概ね3月期決算発表が終わった5月14日をベースとする。
  • ・バリュー指数とグロース指数は、Russell/Nomura 日本株インデックスを用いる。
  • 出所:Russell/Nomura 日本株インデックス、IFISと東証のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成

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