吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.11
過去の消費増税前後の相場について

2019年08月14日号

投資工学開発室
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

投資工学開発室
髙野 幸太

ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。

  • 消費税導入・引上げ後は短期的に相場は堅調。
  • 業種別に見ると過去3回はゴム製品が好調だった。

10月に消費税率が8%から10%に引き上げられる予定です。前回の消費増税が行われた2014年4月(5%→8%)の時は、その後の景気減速が見られたこともあり、今回は軽減税率、プレミアム付商品券や自動車税の軽減など様々な対応も予定されています。とは言え、消費増税が株式相場に与える影響も気になります。そこで今回は、過去の消費増税前後の相場を振り返ってみました。

消費税は1989年4月1日から3%導入がスタートです。そして表1に示されるように、その後2回の引き上げが実施されてきました。過去の日経平均株価の騰落を振り返ると、消費税導入・引上げ後は意外に株価は堅調に推移してきたようです。特に導入・引上げの翌月は過去3回で何れもプラスとなっています。

ここで過去3回の相場環境を簡単に振り返ってみましょう。1989年は年末に向けた日経平均株価の史上最高値38915円に向けたバブル相場の局面でした。ですから、1990年以降の相場が崩れた後を含めて1年後まで見ると-8.7%と下落しています。1997年は金融機関の不良債権問題が深刻な時期でした。同年11月に山一證券が破綻となるなど、環境が悪い時期となっていました。2014年はアベノミクスの効果が見えてきたなかでの実施で、その後の景気後退がありましたが、10月の金融緩和、公的年金の株式組入れ比率拡大などから1年後までを見ると29%の上昇となっています。

過去3回とサンプルが少ないので、あくまでも参考として捉えておく必要がありますが、消費税導入・引上げの前月は3回中2回が下げていましたので、弱含む傾向が見られますが、当月・翌月などの短期はむしろ、一旦は出尽くしから株価は反発となるようです。そして長期的にみると、その時の相場環境に因って動くと見られます。

加えて表2と表3は、消費税導入・引上げの前月と、当月の東証33業種の騰落状況を観察しました。実は、特徴は明確ではありませんでしたが、何れも堅調だったのは、ゴム製品でした。ゴム製品と言えば、タイヤなどに代表される自動車関連ですが、今回の消費増税に関しても、自動車税の軽減措置からも期待の業種になるかもしれません。

表1:過去の消費税導入・引上げ前後の日経平均株価の騰落率

  • 出所:日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成
  消費税 前々月 前月 当月 翌月 翌々月 半年後まで 1年後まで
1989年4月 3% 1.3% 2.7% 2.7% 1.6% -3.8% 8.5% -8.7%
1997年4月 5% 1.2% -3.0% 6.4% 4.8% 2.7% -0.6% -8.2%
2014年4月 8% -0.5% -0.1% -3.5% 2.3% 3.6% 9.1% 29.5%
平均   0.7% -0.1% 1.8% 2.9% 0.8% 5.7% 4.2%

表2:過去の消費税導入・引上げ前月の業種別株価の騰落率

  • 出所:東京証券取引所のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成
    1989年3月 1987年3月 2014年3月 平均
騰落率 順位 騰落率 順位 騰落率 順位 順位
1 水産・農林業 1.8% 16 -5.8% 30 0.9% 7 20
2 鉱業 6.3% 6 -5.0% 28 2.6% 4 6
3 建設業 16.8% 1 -3.9% 24 -1.4% 22 15
4 食料品 -0.3% 22 -2.1% 18 0.6% 9 16
5 繊維製品 3.9% 11 -1.9% 17 -0.2% 12 9
6 パルプ・紙 3.7% 12 -4.4% 27 -1.1% 20 25
7 化学 11.2% 2 -0.4% 11 0.0% 11 1
8 医薬品 4.1% 10 0.9% 6 -3.0% 29 12
9 石油・石炭製品 -5.5% 30 0.0% 10 -3.7% 31 30
10 ゴム製品 4.6% 8 4.0% 2 -0.7% 16 2
11 ガラス・土石製品 10.1% 4 -2.4% 20 3.3% 3 3
12 鉄鋼 2.4% 15 1.1% 5 -3.6% 30 17
13 非鉄金属 4.4% 9 -3.6% 23 -2.6% 26 23
14 金属製品 2.6% 14 -4.2% 26 -2.9% 28 28
15 機械 9.1% 5 -2.4% 21 -2.1% 25 18
16 電気機器 0.1% 21 0.6% 8 -0.7% 17 14
17 輸送用機器 0.6% 17 -0.6% 13 -0.5% 15 12
18 精密機器 4.9% 7 -1.5% 15 -0.4% 14 5
19 その他製品 -1.2% 25 0.4% 9 0.8% 8 10
20 電気・ガス業 -9.0% 33 -1.3% 14 -4.7% 32 32
21 陸運業 3.4% 13 1.6% 4 0.2% 10 3
22 海運業 10.6% 3 -6.7% 32 -5.5% 33 28
23 空運業 -1.7% 27 -6.3% 31 -0.8% 18 31
24 倉庫・運輸関連業 -0.5% 24 -5.1% 29 3.8% 2 21
25 情報・通信業 -5.2% 29 0.8% 7 -1.7% 24 26
26 卸売業 0.6% 18 -1.7% 16 -1.6% 23 22
27 小売業 0.4% 19 -2.3% 19 3.9% 1 7
28 銀行業 -0.4% 23 -2.7% 22 -0.9% 19 27
29 証券、商品先物取引業 -7.2% 31 -9.4% 33 -2.8% 27 33
30 保険業 -8.4% 32 5.1% 1 1.2% 6 7
31 その他金融業 0.2% 20 2.5% 3 -1.2% 21 11
32 不動産業 -3.0% 28 -4.0% 25 2.0% 5 23
33 サービス業 -1.3% 26 -0.4% 12 -0.3% 13 18

表3:過去の消費税導入・引上げ当月の業種別株価の騰落率

  • 出所:東京証券取引所のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成
    1989年4月 1987年4月 2014年4月 平均
騰落率 順位 騰落率 順位 騰落率 順位 順位
1 水産・農林業 10.3% 2 2.7% 22 0.3% 7 4
2 鉱業 6.9% 5 0.4% 28 10.2% 1 7
3 建設業 -2.9% 32 -3.8% 33 1.5% 5 28
4 食料品 8.1% 4 5.6% 14 1.7% 4 2
5 繊維製品 4.3% 11 6.9% 8 -2.3% 14 5
6 パルプ・紙 4.2% 12 0.5% 27 -7.6% 30 27
7 化学 0.9% 25 9.8% 4 -1.7% 11 10
8 医薬品 -2.8% 30 5.6% 13 -5.0% 27 28
9 石油・石炭製品 3.3% 14 4.0% 19 6.6% 2 8
10 ゴム製品 9.1% 3 12.8% 2 0.2% 8 1
11 ガラス・土石製品 5.7% 8 5.6% 15 -4.1% 21 11
12 鉄鋼 5.4% 10 5.2% 16 -3.8% 20 14
13 非鉄金属 4.1% 13 6.6% 10 0.5% 6 3
14 金属製品 2.4% 17 1.4% 25 -4.7% 24 25
15 機械 6.4% 6 6.6% 11 -3.5% 18 8
16 電気機器 1.8% 20 7.6% 6 -4.2% 22 17
17 輸送用機器 2.1% 18 10.5% 3 -4.8% 26 15
18 精密機器 6.1% 7 6.8% 9 -5.4% 28 11
19 その他製品 2.9% 15 7.1% 7 -6.7% 29 18
20 電気・ガス業 1.0% 24 -0.1% 29 -7.7% 31 32
21 陸運業 -2.3% 29 4.6% 17 -0.5% 9 21
22 海運業 17.2% 1 2.1% 23 -10.1% 32 22
23 空運業 1.7% 21 -2.0% 32 2.0% 3 22
24 倉庫・運輸関連業 5.7% 9 3.6% 20 -3.4% 16 13
25 情報・通信業 0.2% 26 2.9% 21 -3.7% 19 25
26 卸売業 1.6% 23 4.2% 18 -3.0% 15 22
27 小売業 2.5% 16 8.0% 5 -1.7% 12 5
28 銀行業 -2.8% 31 0.8% 26 -4.3% 23 31
29 証券、商品先物取引業 -3.3% 33 -0.3% 30 -12.7% 33 33
30 保険業 -1.4% 27 -0.5% 31 -3.4% 17 30
31 その他金融業 2.0% 19 1.4% 24 -1.5% 10 19
32 不動産業 -1.8% 28 12.8% 1 -4.8% 25 20
33 サービス業 1.7% 22 6.2% 12 -2.1% 13 15
  • 東証33業種別株価指数を用いた
  • 騰落率の上位5業種の数値には太字とした
  • 平均順位は過去3回の順位の平均から求めている

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