吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.5
「Sell in May」って本当?

2018年04月26日号

投資工学開発室
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

投資工学開発室
髙野 幸太

ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。

  • 6月から9月末までの日経平均の騰落率は過去15年間で上昇の年の方が多く、近年は「Sell in May」の傾向が見られない。
  • 古くからのアノマリーは、近年の傾向を検証して使う必要がある。

新緑の季節を迎えました。5月になると気候も穏やかで、気持ちも朗らかになりやすい時期ですが、投資家にとって気になるアノマリー(株式相場でよく見られる現象、経験則)があります。

古くから米国で言われる『Sell in May and go away. But remember come back in September.』は、6月から9月には株価が弱くなる傾向があるため、「5月に株を売るが、9月に相場に戻るのを忘れるな」というものです。この根拠には、様々な説があります。5月はヘッジファンドの決算にあたるため、そのポジション解消の換金売りが発生することや、7月、8月辺りは外国人投資家の長い夏休みシーズンで盛り上がりに欠けること、などです。しかし、本当にそうでしょうか?それに、このアノマリーは米国が源です。確かに日本株は米国株に影響を受けますが、それだけでもありません。そこで今回、このアノマリーを確認してみました。

まずは、過去15年間で6月(5月末)から9月末までの日経平均の騰落率を分析してみました。もし、この期間の騰落率がマイナスであれば、「5月に株を売るが、9月に相場に戻れ」を実践することで、この間のマイナスの影響を避けられたことになります。一方で、プラスであれば、この期間の上昇の恩恵は受けられなかったことになります。さて、分析結果は、グラフ1の通りですが、この期間に騰落率がマイナスとなる傾向は見られませんでした。むしろ、15年のうち、8年がプラスとなっており、上昇の年の方が多いという結果になりました。

どうも、 Sell in May and go away. But remember come back in September.は、日本株ではあまり見られない傾向のようです。

グラフ1:6月(5月末)から9月までの4カ月間の日経平均騰落率は、プラスとなった年が多かった。

出所:日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成

同様の分析を、このアノマリーの原点となる米国市場でも行いましたが、過去15年の結果ではSell in May アノマリーが見られませんでした。グラフ2で6月(5月末)から9月末までのNYダウの騰落率を見ると、15年のうち11年間の騰落率がプラスとなりました。7割以上の年が上昇となっています。どうやら、日米ともに、Sell in Mayを信じて5月に株を売る必要はなさそうです。

グラフ2:6月(5月末)から9月までの4カ月間のNYダウは、7割以上の年が上昇という結果に。

出所:bloombergのデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成

ここまでの分析は、日米の6月から9月までの4ケ月間の騰落率を使ってきました。もう少し掘り下げて、次は日経平均の月別の騰落率を分析してみましょう。グラフ3は、1970年2月からの月間騰落率を月別に集計したものですが、6月も7月もプラスとなっています。グラフ4で過去10年に絞って見た場合も、6月はマイナスでしたが、7月はそれを上回る上昇率となっていました。月別騰落率で気になるのは、8月のお盆休みシーズンが軟調なことです。相場が夏枯れになり易いのは、今も昔も変わらないようです。

因みに、長期の平均(グラフ3)と、足元10年(グラフ4)の傾向で大きく違うのは、年初となる1月の動きです。これも米国発祥のアノマリーになりますが、1月に株価が上昇する傾向があるという『1月効果』が、日本でも長期の平均では見られています。しかし、近年は、グラフ4の通り、1月に株価が下がっています。このように、昔から言われるアノマリーは近年の傾向と異なるものが少なくありません。 Sell in Mayもその1つです。ジックリと投資環境を考えた投資行動が必要のようです。

グラフ3:6月と7月の日経平均騰落率の平均はプラス(長期)

出所:日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成

グラフ4:近年も夏枯れ傾向が見られる(過去10年)

出所:日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成

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