吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
No.3
スポーツシューズ
2017年11月09日号
投資工学開発室
吉野 貴晶
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。
投資工学開発室
髙野 幸太
ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。
スニーカー通勤が増えると日経平均株価は上昇する!?
- スポーツシューズの市場規模は日経平均と連動。
- スポーツシューズの市場規模÷ベビー・子供靴の市場規模により、日経平均との連動がより分かりやすく確認できる。
今回、皆さんにご紹介する、景気や株価の意外な法則は、『スポーツシューズと株価の関係』です。スポーツ庁は来年3月から、国民の健康増進を図るプロジェクト『FUN+WALK PROJECT』を始めます。気軽に取り入れられる運動である、歩くことを通じて、スポーツ参画人口の拡大を図り、国民の健康増進につなげるものです。その第1弾が、スニーカー通勤など歩きやすい服装の推奨です。通勤時に、歩きやすい服装を取り入れることで、ビジネスパーソンに、歩く距離を増やしてもらおうということです。そして歩くことから始めて、スポーツを身近に感じる人が増えれば、国民の健康増進にもつながります。一方、スーツにスニーカーは似合わないとか、オフィスで靴を履きかえたりして面倒、などの見方もあるようです。しかし、ファッションに関する雑誌などでも、スーツに合うスニーカーの着こなしの特集も組まれるなど、注目もされています。実際、既にスニーカー通勤をされている方に聞くと「満員電車でも疲れにくく、ストレスが減る」とか、「会社帰りにスニーカーに履き替えることも気分転換になる」など、心理的な面でのプラス効果も少なくないようです。
このように更に利用の幅の広がりが期待されるスニーカーですが、実はその売れ行きと株価の間には意外な連動性が見られるようです。実際にデータで確認しましょう。市場調査で知られる矢野経済研究所は毎年、国内靴・履物小売市場に関する調査結果を公表しています。靴全体の市場規模だけでなく、スポーツシューズなどアイテム別の公表も行われています。直近のデータは2017年2月に発表された、2015年度の結果ですが、スポーツシューズの市場規模は前年に比べて、5%伸びました(矢野経済研究所では、2016、17年度の予測値も発表していますが、ここでは実績のみを用いています)。
グラフ1:スポーツシューズ÷ベビー・子供靴と日経平均

グラフ2:ベビー・子供靴の市場規模は日経平均と逆に連動

そこで、スポーツシューズの市場規模と日経平均の関係を見て見ましょう。スポーツシューズの市場規模は、リーマンショックに向けて落ち込みが見られており、日経平均と連動します。スポーツシューズが売れると株高となる関係が見られるようです。ここでグラフ1を見てみましょう。スポーツシューズの市場規模自体、日経平均と連動が見られますが、グラフ1ではグラフを作る際に少し工夫し、連動がより分かりやすいように示しています。単純なスポーツシューズの市場規模ではなく、スポーツシューズの市場規模をベビー・子供靴の市場規模で割ったものです。つまり、スポーツシューズの市場規模が、ベビー・子供靴の市場規模と比較して増えたか?それとも減ったか?を見ているものになります。
実は、ベビー・子供靴(靴市場全体に対する割合)は、株価の動きと逆に推移しています。グラフ2は値が高いほど、ベビー・子供靴の市場規模の比率が全体に比べて高まることを表します。このグラフは日経平均と反対に動いているようです。ですので、日経平均と連動が強いスポーツシューズの市場規模を、日経平均と逆に動くベビー・子供靴の市場規模で割ることにより、グラフの動きが大きくなり、日経平均との連動がより強く見られるようになります。
それでは、何故、スポーツシューズの市場規模は株価と連動する一方で、ベビー・子供靴の市場規模は逆の動きとなるのでしょうか?スポーツシューズの市場規模は、景気と連動性が高いものと考えられます。景気が良く、人々の所得が良くなれば、値段の高いスポーツシューズなどを買う余裕が出ます。例えば仕事で使うビジネスシューズに比べれば、お金に余裕がなければ、普段履きのスニーカーは、古いままで我慢しようと思うかもしれません。一方、ベビー・子供靴はどうでしょうか?確かに所得が下がると、あまり値段が高いものは買い控えるかもしれません。しかし、所得が減っても、ベビー・子供靴のお金を削るより、大人のスニーカーに回すお金を削る家庭も少なくないのではないでしょうか?スポーツシューズの売れ行きが高まる環境は、より所得に余裕があり、それを反映して株価は上昇するのです。
スニーカー通勤はスポーツシューズ人気を高めるものと期待されます。今後の株価も好調な推移を期待したいものです。
吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
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