吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
No.1
大型車の交通量は景気に先行している
2017年08月24日号
投資工学開発室
吉野 貴晶
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。
投資工学開発室
髙野 幸太
ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。
皆さんの身近では、景気や株価と意外に結びつきが強い様々なデータを見つけることができます。筆者は、2002年に「サザエさんと株価の関係」という、ちょっと不思議な題名で本を書きました。これはサザエさんが、直接、株価と関係するものではありません。サザエさんの視聴率が下がる時に株価が上がり、逆に視聴率が上がると株価が下がるという関係です。この意外な関係は、偶然ではありません。サザエさんのオンエアーの時間は、日曜の夕食の時間に重なったりするものです。家族との夕食の時間に、何気なくテレビをつけて、サザエさんを楽しむ家庭も少なくないでしょう。ということは、サザエさんの視聴率が高い日曜日は、夕食時に自宅にいる家庭が多い、つまり在宅率が高いということです。その時間に、レジャーを楽しんだり、買い物をしたりなど、消費にお金が回っていないということは、景気や株価にはネガティブとなる傾向があるということが理由です。ちょっと、前置きが長くなってしまいましたが、今回から、こうした景気や株価のジンクスとも言える、意外な関係を紹介していきます。
第1回目は、大型車の交通量と、景気や株価の関係を取り上げます。景気が良いなら、荷動きも活発になり、出かける人も増えるから、交通量が増えるのは当たり前だろう、と思う人も少なくないでしょう。しかし、ここでのポイントは、大型の車が増えることが景気を先回りするというものです。国土交通省のウエブサイトを見てみましょう。国土交通月例経済(平成13年7月号)では、「~景気に対して先行的に動く交通関連統計~」が公表されました。この報告書では、「特積みトラックが鉱工業生産指数に比べて3カ月先行して動く」ことが示されています。鉱工業生産指数は我が国の製造業を中心とした景気を見る上で代表的な指標です。特積みトラック※1の輸送トン数が増えると、3カ月後に景気も拡大するというものです。それでは足元の国土交通月例経済で公表されている情報を見てみましょう。7月31日には5月の結果が報告されました。特積みトラックの輸送トン数は520万トンと7カ月連続で前年比プラスです。
- 特積みトラックとは、地域ごとに仕分けを行う拠点を用意し、拠点間を結ぶ定期的な運送便に貨物を積み合わせて運送するトラック。
グラフ1:単純な首都高速道路の通行台数と景気との関係は強くない

グラフ2:平日の大型車の通行台数は景気に3カ月先行

マーケットでは国内景気の先行きに対して、懸念する見方も少なくありません。しかし物流の情報から見ると、今後の景気回復が期待できます。
他の交通量に関する情報も使ってみましょう。毎月、首都高速道路株式会社から首都高速道路通行台数が発表されています。首都高速道路の通行台数も景気と関係があるのでしょうか?先ずは、簡単に景気との推移を比較してみます。グラフ1は、月別に見た首都高速道路の1日平均通行台数について、前年と比較したものです。こうした交通量と景気との単純な推移では明確に連動している傾向が見えません。実は、データを深堀りして使う必要があります。先ほど紹介した、国土交通省の分析では、特積みトラックが使われていました。報告書のなかで「特積みトラックは原料や半製品の工場への輸送なども多く含まれているから」と根拠が書かれています。一般の乗用車などによるヒトの移動よりも、モノの移動と景気との関係の方がより強いことが背景にあるのかもしれません。そこで、首都高速の通行台数に関しても、大型車※2と普通車に分類して分析してみることにします。更に、モノの移動に関して見るのであれば、休日を除いた集計で見たほうがよいでしょう。グラフ2は平日の大型車の通行台数の前年比が、普通車の前年比(大型車ー普通車)と比べて、どの程度高いかと、景気指数の関係を見たものです。2つのグラフは連動性が高いことが見て取れます。統計分析では、2つの情報の関係の強さを見るのに、相関係数が使われます。相関係数は1から-1の間の値をとります。1に近ければ、それだけ、2つが連動していることを示しています。実際に、これらの相関係数は、0.41となりました。相関係数の値の評価には様々なものがあるようですが、0.4以上の水準は「かなり相関がある」、つまり2つのデータの関係が強い可能性を表すとされます。更に、大型車ー普通車のグラフは3カ月景気に先行して動いています(3カ月先行させると相関係数は0.51まで上昇)。3カ月先行するのは、国土交通省の分析と同じ結果ですね。次に、株価との関係も見てみましょう。日経平均の前年比と比べても連動する動きが見られました。足元にかけて、大型車ー普通車のグラフは上昇しています。今後の景気や株価の回復が期待されます。
- 車両法による区分。大型の貨物自動車。
グラフ3:平日の大型車の通行台数は株価との関係も強い

吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
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