アナリストの眼

「働き方改革」=単純なコスト削減の図式では、中長期成長性を見落とす

掲載日:2017年01月24日

アナリスト

投資調査室 醒井 周太

今や、TV・新聞・雑誌で、「働き方改革」のニュースを目にしない日がないほど、関心が高まっています。前回のテーマと重なりますが、具体的事例を踏まえ、異なる側面から書いてみたいと思います。

2016年9月に「働き方改革担当大臣」が新設され、また首相主導で「働き方改革実現会議」が開催される等、国をあげて長時間労働是正に向けた様々な取組みが始まっています。

企業でも、「元日午前中を除き365日働く」という日本電産の永守会長が「働き方改革」に乗り出す等、世の中が大きく変わろうとしていることを実感しています。日本電産では、残業する社員は、朝礼で上司に理由と時間を申告し、許可を得る必要があるそうです。この徹底度合が日本電産の強みの一つと思います。こうした取組みで、不要な報告事項や会議等が削減され、残業時間も大幅に短縮でき、業績にプラス寄与したそうです。

先日、ご来社いただいたある企業では、更に進んだ取組みをされていました。その企業では、短期的な残業代の削減を、コストカットだけに留めず、人材への再投資へと回す仕組みを考えていました。

ミーティングの冒頭では、残業時間を短縮するための取組みの説明があり、その中でTOEICに対する奨励金の話が出てきました。通常であれば、数千円程度のものを、その企業では数万円以上の奨励金を出すことにより、従業員のモチベーションを更に引き出し、ビジネスに繋げていました。金額の多寡は、現在の取組みを「お題目」に終らせず、成果に繋げようとする社長の意思を表しているとも思いました。「早く仕事を終わらせて、帰ろう」との掛け声だけでは、なかなか継続的な取組みとしては、定着しないものかもしれません。

その企業の社長は就任以来、現場に入り込み、年間数十回・年間数百人(本社の1/3に該当)との意見交換会を続けてきました。様々な提案があったようです。現場との意思疎通を通して、継続的に好循環を生み出す仕組みになれば、ひとつひとつは、目を見開くような画期的な取組ではなかったとしても、積上げれば大きな強みとなります。

概して、短期主義の風潮の中、目先のコスト削減効果にばかり目が行きますが、「働き方改革」を単なるコスト削減に留めず、中長期的な成長への変革と捉えて、取組みを進めている企業が存在しており、残業代削減イコール利益増加を単純な図式で見ていては、中長期的な企業の成長性を見落としかねません。

この「働き方改革」を、中長期的な企業価値の観点から評価する際に、「人材が競争力の源泉」であるという原点を、もう一度見つめなおし、努力を続けて行きたいと思います。

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