アナリストの眼

コーポレートガバナンス改革の進展

掲載日:2016年10月25日

アナリスト

投資調査室 小林 守伸

2015年にコーポレートガバナンス・コード(以下、コード)が導入され、日本企業のコーポレートガバナンスに対する意識が大きく変わってきていることを投資家として実感しています。

機関設計において、日本の上場企業の場合、監査役設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社の3つの形態があります。東京証券取引所(以下、東証)のコーポレートガバナンス情報サービスを活用し調べてみますと、10月14日現在、東証に上場している企業のうち監査役設置会社は2,769社、指名委員会等設置会社は68社、監査等委員会設置会社は669社となっています。

監査等委員会設置会社は2015年に導入された機関設計で、従前からあった指名委員会等設置会社とともに取締役会に委員会を設置し、監督機能の強化を目指したものです。

監査役設置会社から監査等委員会設置会社に移行する場合、いわゆる「横滑り」問題が指摘されています。監査等委員会設置会社は従来の社外監査役を監査等委員会の社外取締役とすることができ、そのまま「横滑り」させることで、社外取締役を安易に確保しているとの指摘です。

監査等委員会設置会社の場合、定款を変更することで取締役会の権限を指名委員会等設置会社と同じ範囲で執行サイドに委譲することが可能になります。監査等委員会設置会社に移行した669社のなかには権限移譲の定款変更を行った企業も多く、こうした企業は意思決定の迅速化、監督と執行の分離などを意識しているとみられ、ガバナンス改革は進展していると受け止めています。

取締役会の監督強化の担い手は社外取締役です。コードでは「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。」としています。東証が行った調査では、2016年7月時点で東証一部上場企業のうち2名以上の独立社外取締役を選任する企業の比率は79.7%に達しており、2014年の21.5%、2015年の48.4%から大きく上昇しています。前述の監査等委員会設置会社の「横滑り」問題とも関連し「数合わせ」との指摘があるのも事実です。

一方で、企業主催でその企業に在籍している社外取締役による投資家・アナリスト向けの説明会を開催し、社外取締役として当該企業のガバナンス改革について説明するといった先進的な取り組みを行う企業も出てきました。その社外取締役が「社外取締役の経験や知見により、執行陣が社内の論理だけにとらわれることなく適切な議論を経て意思決定がなされるようになった」と本質を捉えたコメントをされており、印象的でした。

機関設計にしても社外取締役の構成にしても、行き着くところは取締役会の実効性の向上にあります。コードでは取締役会の実効性評価を求めています。取締役会評価は海外では一般的になっていますが、日本においてはコード導入前までは馴染みの薄いものでした。

東証一・二部上場企業を対象にした東証のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況調査で「取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、結果の概要の開示」(補充原則4-11(3))において、「実施」とした企業数は2015年12月時点の676社から2016年7月時点では1,245社へと急増、実施しない理由を説明した割合を示す説明率も63.6%から45.0%へと低下しています。最近、統合報告書やアニュアルレポートにおいて、取締役会の実効性評価の結果とそれを受けての対応について詳細に解説する企業が出てくるなど、企業が前向きに取り組んでいる状況が見てとれます。

コーポレートガバナンスにおける企業の取り組みは、機関設計ひとつとってみても委員会の構成なども含めると多様ですし、ガバナンス改革に先進的に取り組まれている企業もあれば、慎重なスタンスで臨まれている企業もあります。コードでは「3種類の機関設計のいずれを採用する場合でも、重要なことは、創意工夫を施すことによりそれぞれの機関の機能を実質的かつ十分に発揮させることである。」としています。コーポレートガバナンスの分析においては、機関設計や社外取締役の割合など外形的な分析だけに留まっているケースが散見されます。私共は形式的ではなく、それぞれの企業に応じた最適なガバナンス体制を構築することが重要だと認識しており、企業の皆様との対話により、ガバナンス改革のお手伝いができればと考えています。

当社ではガバナンスを含めたESG評価を、企業のファンダメンタルズ分析やバリュエーション分析を行うアナリストが一貫して行っています。アナリストが集まり、ケーススタディなどを通じ、担当セクター以外の企業の事例などの共有に努めています。また、当社コーポレートガバナンス・オフィサーである井口が理事を務めるICGN(The International Corporate Governance Network。ESGを推進する国際団体。)を通じ、国際的な情勢なども共有しています。コーポレートガバナンス改革が進展するなか、更なる研鑽を積むことで、企業価値向上に向けたお手伝いができればと考えています。

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