アナリストの眼

ESG評価のプロセスは企業の未来を知ること

掲載日:2016年05月02日

アナリスト

投資調査室 佐藤 啓吾

最近メディア等でESGという言葉が取り上げられる機会が増えてきました。そこで、今回はESGを軸にした企業価値評価を現場のアナリストがどのように行っているかを紹介したいと思います。

図解:わかるESG評価プロセス

機関投資家として、企業との建設的な「目的を持った対話(エンゲージメント)」が求められる中、ESG投資あるいは非財務情報の重要性が高まってきています。しかし、運用業界においてESG投資の位置づけとその解釈は多岐に渡っており、特に「超過収益の源泉になるか」という視点においては明確な結論が出ていないように思われます。ニッセイアセットでは「受託者責任」を果たすという考えのもと、ESG分析や企業との対話を通じて、その企業の長期的な将来像を描くこと、及び、適切なキャッシュフロー予測、企業価値の計測を重視したリサーチを行っておりますが、私自身もアナリストチームの一員として、常に長期的な成長可能性と短期的な業績変動とのバランスを加味した投資判断を心がけています。その際に意識しているESG評価プロセスをわかりやすく図解にしたものが以下になります。

ESG分析及び対話による深い理解・投資家視点での支援
※上記項目は、わかりやすい要素を抽出して記載
E(環境) S(社会) G(企業統治)
リスク認識・対応力の評価
  • CO2排出
  • 気候変動問題
  • 企業倫理、理念
  • ステークホルダーとの関係
    [サプライヤー、ディストリビューター、従業員への適正対価]
  • ガバナンス構造
    [社外取締役・委員会の質]
  • 財務バランス
    [事業リスクvs資本バッファー、資本効率の意識]
企業価値の源泉・コア経営資源の評価
  • 環境問題を解決する製品、サービスの創造力
  • 社会問題を解決する製品、サービスの創造力
  • ビジネスモデル
    [差別化、時代の変化]
  • 経営戦略
  • 経営陣の執行力
企業の未来像・企業価値創造力の判断

企業価値計測とのインテグレーション

例えば、ESG評価のうち「G(企業統治)」の評価においては、社外取締役の数や委員会の設置状況、及びその構成メンバーの独立性などガバナンス構造の議論に焦点が当たりがちですが、企業側からすれば外形的な議論の側面が強く不満を感じている部分もあると思います。当然、取締役会の透明性を担保し持続的成長を図る上では重要な事項の一つであることは事実ですが、まずは、その外形的議論をする前に、その会社の企業価値の源泉であるビジネスモデルや経営戦略、経営陣の執行力評価など、対話先企業への深い理解をすることが重要で、その結果としての最適なガバナンス構造を投資家の視点から示唆・支援をしていくということが重要と考えています。

また、E(環境)、S(社会)面の対話においては、CO2排出量の多い産業や労働問題を抱えているなどネガティブリスクを抱えている企業に対して、より適切な開示や改善を求め、リスク認識の共有化や対応力強化を促していくことは機関投資家の受託者責任を果たすうえで非常に重要と考えておりますが、一方で、例えばCO2排出を抑制する製品の提供やペーパーレス化を実現するサービスを提供し環境問題を解決する会社や、社会問題でもある後継者問題を解決するようなM&Aサービスを提供している会社をより高く評価することも重要だと考えております。具体的には、キャッシュフローの成長性や収益性の持続可能性を将来予測に織り込むことで企業価値評価を行うということです。

時代の変化を捉えた成長が実現可能か

「G(企業統治)」の評価では前段に記載したとおり、対話先への深い理解が重要になります。ガバナンス構造や資本効率の意識も重視しておりますが、経営戦略の妥当性という視点で事業ドメインを評価することも非常に重要です。どのような歴史を歩み、現在どういう視点・プロセスでビジネスの意思決定がされているかを知るということです。「ブレない経営理念を持ちつつ、時代の変化へ適応しながら事業ドメインを構築できるか」ということを踏まえて評価することが、その企業の未来をより良く知ることに繋がります。例えば、テクノロジーの進化により低コストかつビジネスの拡張性が高いインターネットサービスビジネスが普及していることが世の中でも良く認識されているわかりやすい事例かと思います。変動費がほとんどかからず拡張性が高いというこの特性により、フリーミアム(一部の有料会員から収益を上げる)というビジネスモデルが生まれたり、また雑誌や店舗のように紙面や空間の制限を受けないインターネットメディアの中で、多種多様な商品サービスの価格比較サイトを運営し存在感を示す企業も生まれました。消費者の行動としても様々なモノがあふれる世の中において、キュレーション(ユーザーの趣味趣向に合わせた情報の集約・提供)サービスを求めたり、そもそもモノの購入ではなく体験型消費を志向したりと時代は大きく変化しています。これに限らず、様々な変化を見せる世の中の動きに対して、自社のコア経営資源や顧客への提供価値、差別化できる領域を適切に把握し、最大限活用する経営戦略の意思決定ができることも企業統治の一つの重要な要素ではないでしょうか。

ESG評価は、ネガティブリスクへの対応や企業統治の枠組みに焦点が当たる部分も多いかと思いますが、企業の本質を捉えるESG評価のプロセスが運用業界でも今後大きな存在感を示していくと考えています。

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