アナリストの眼

現場から伝わること

掲載日:2015年11月05日

アナリスト

投資調査室 八並 純子

アナリストの重要な活動の一つに、通常の説明会や1対1のミーティングとは別に、企業の生産現場である工場や研究所、各地域の販売拠点の訪問があります。例えば、工場の訪問では、該当企業の製品の仕組みやコスト構造の理解に努め、技術の競争優位性を把握したり、今後の原価低減の可能性を探ります。また、研究所の訪問では、研究開発体制の理解や、今後の研究の方向性をディスカッションすることもあります。これらのことは企業の業績予想の作成や投資判断をする際に重要な要素となります。更に、現場の方々のモチベーションの高さや、モノづくりへのこだわり、新製品開発への熱い思い、一体感など、その場にいったからこそ感じとれることもあります。長年アナリストをやっていますと、現場訪問から得られる非財務情報こそが、振り返ってみると、中長期の企業価値に大きく影響していたということを痛感することがあります。ここでは、いくつかの事例をご紹介することで非財務情報の重要性をお伝えできればと思います。

A社は医療機器の開発販売を手掛ける会社です。自社でも高い技術の優位性を持っていましたが、今後の成長のために自社にない技術を持つ会社を買収しました。企業の成長のためには、M&Aは重要な手段の一つですが、買収後に本当に企業価値増加につながっているのかを見極めることは通常の説明会等ではわかりづらい時があります。買収後少したって、買収された企業を訪問する機会がありました。その際に、買収された経営陣の考え方がいつもお会いしているA社の社長と同じであること、また、同様に高い志を持っていることやA社と同様の顧客のニーズにこたえるための技術へのこだわりといったことを確認できました。更に、買収されたことで、投資や開発の機会が広がったと前向きに考え、活き活きと働いていらっしゃる工場長や現場のみなさんの表情をよく覚えております。その後A社は買収した会社の技術を活用した多くの新製品を出し、持続的な企業価値の増加を実現しています。

B社は消費財メーカです。当時今後の成長が期待されていた新興国での活動を調べるべく、海外の販売拠点の一つを訪問しました。消費財といえども日本で当たり前に使われているものが、海外で使われていないことはよくあります。新興国ではなおさらです。そういった国では、使用習慣をつくり、また、その際に同社製品を愛用して長く使い続けてもらうといった取り組みが重要になります。B社では、同社の主要製品を幼児期から使ってもらう習慣をつくるため、現地の学校でその製品を使うことの大切さを教え、実際に使ってもらうために必要なものの提供など、地道な活動を続けておりました。また、現地の社長の現場従業員への細かい気配りや、日本から遠くはなれていても、日本と同様のブランドの価値観を持っていること、何より自分が扱っているブランドに対する思いの強さにも大変驚きました。まさに、かかわっている人の思いや継続的な活動こそがブランド力の構築につながり、また、グローバルでの価値創造に結び付いているのだと実感しました。B社はその後も着実に新興国での売上を拡大、また、そういった活動を積極的に行っていく社員の育成にも成功し、グローバルでの売上成長とブランド価値向上を続けています。

以上、私が特に印象を受けた2社をご紹介しました。そのほかにも、例えば、生産体制をセル生産方式※としたことにより、従業員のモチベーションと品質の向上、原価低減を実現し主要製品を拡大したケース、現地社員の製品力への強い自信とそれを支える本社研究所での絶え間ない製品改良や生産現場でのこだわりにより、グローバルでのシェア拡大を実現させたケースなど、多くの会社で現場の方々と目標を共有、達成に向けて一体感をもつことで企業価値の持続的な向上に結び付けています。現場にいくことで、初めて競争優位性を理解し、自信を持って投資をすることができる場合もあります。もちろん、海外現地法人が本社の方しかみておらず、現地顧客のほうを向いていない、研究所の活気がなかったなど、残念なケースもありますが、経営トップの変更などにより、数年後に行ってみるとがらりとよい方向に変わっていることもあります。

  • セル生産方式:工場等での製造における生産方式の一つであり、一人、または少数の作業者チームで製品の組み立てを完成まで行う方式。

持続的な企業価値向上には、戦略を実現するための一人一人の社員の方の活動が不可欠になります。投資家として、現場の方々と直接お会いできるのはとても重要な機会であり、また、投資家と直接ディスカッションすることを現場の方々のモチベーションの向上につなげている企業もあります。今後も企業価値創造の仕組みをより深く理解するために、こういった機会が増えることを期待し、ウインウインの関係を築いていきたいと思います。

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