吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.16
「ミクロ・サプライズ指数」は上昇

2020年08月27日号

投資工学開発室
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

投資工学開発室
髙野 幸太

ニッセイアセット入社後、ファンドのリスク管理、マクロリサーチ及びアセットアロケーション業務に従事。17年4月より投資工学開発室において、主に計量的手法やAIを応用した新たな投資戦略の開発を担当する。

  • 3月期決算企業の第1四半期は厳しい決算発表となった企業が多かった。
  • 一方、ミクロ・サプライズ指数は0%を上回って上昇傾向にある。
  • 事前の悲観的な予想に対して、ある程度のポジティブサプライズとなる銘柄の増加が期待される。

3月期決算企業の第1四半期(4-6月期)決算発表シーズンが終わりました。コロナ禍による自粛などから需要が急減したことを受けて、数多くの企業では売り上げが落ち込み、利益も低迷しました。

実際にデータで確認すると次のようになります。東証1部に上場する3月期決算企業のなかで、企業の決算発表が概ね終わった8月17日までを対象に、4-6月期の営業利益が前年(2019年度4-6月期)と比べて増加した企業の割合を見てみました。集計結果から前年より営業利益が伸びた企業は32%に過ぎませんでした。この数値が50%を割り込んでいると、前年と比べて業績が悪い企業の方が多いということです。なお、昨年の10-12月期以降は、消費増税の影響などもあり景気が減速して割合が37%まで落ち込んだ後、コロナ禍で更に業績が悪化して割合が低下しています。

図1:四半期の営業利益が前年比で改善した企業の割合

  • 分析期間は2018年10-12月期から2020年4-6月期。東証1部上場企業の3月期決算企業を対象(8月17日発表分まで)。
  • 出所:東証のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成。

米国大統領選が控えていることや米中関係悪化など海外情勢は依然として不透明です。また国内では歴史的な景気後退を示す経済指標の発表が見られる上に、新型コロナウイルス感染者拡大の懸念も高まっています。こうしたなかで企業業績の先行きの不透明感は強まっています。
しかし事前のアナリスト予想との関係を見ると、今回の企業の決算発表からは異なる示唆も見られます。

実際にミクロ・サプライズ指数を使って足元までの傾向を見てみましょう。同指数は、東証1部企業のなかで、セルサイドアナリストが3人以上フォローしている銘柄を対象に、次の様な分析を行います。四半期決算発表の時に、会社が発表した実績の営業利益が事前のアナリストの予想より大きく上回って着地した銘柄数から、大きく下回って着地した銘柄数を引いて、それを実際の分析対象銘柄数で割って求めます。ここで事前のアナリスト予想より大きく上回ったというのは、アナリスト予想の平均+標準偏差を基準としています。これを上回って実績の営業利益が着地した銘柄が何銘柄かをカウントします。同様に、アナリスト予想の平均ー標準偏差を下回って営業利益が着地した銘柄数をカウントし、そこから引いています。これを過去120歴日(約4カ月)で集計したものをミクロ・サプライズ指数と呼ぶことにします。グラフが0%より上方にあることは、実際の決算発表で営業利益が、事前のアナリスト予想より大幅に上方で着地した銘柄が多かったことを表します。

このミクロ・サプライズ指数ですが、TOPIXの推移と並べて見ると、その山と谷が概ね連動していることが分かります。事前のアナリスト予想に比べて、決算で公表された利益が“悪かった銘柄”が多い時には、相場が下げて、逆に“良かった銘柄”が多い時には、相場が上場する傾向となっています。

図2:ミクロサプライズ指数とTOPIX

  • 分析期間:2016年10月3日から2020年8月17日。
  • 出所:IFISと東証のデータを基に、ニッセイアセットマネジメントが作成。

足元のグラフの動きは0%を超えて上昇しています(図2中の黒丸部分)。市場で織り込まれているアナリスト予想と比べると、ポジティブサプライズを示す決算発表銘柄が多く見られており、その数も増加傾向です。図1とあわせて解釈すると、足元の業績は前年と比べて落ち込みが大きい企業は多いものの、すでに環境の悪さを事前に織り込んで作られた“予想値”をある程度上回る企業が多いということでしょう。今後の企業業績の行方は楽観視できませんが、事前の悲観が強いほどポジティブサプライズは期待されるかもしれません。

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