アナリストの眼

コーポレート・ガバナンス報告書の記述から

掲載日:2016年02月08日

アナリスト

投資調査室 加藤 真二

2016年1月に東京証券取引所が公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2015年12月末時点)」によれば、東証第一部・第二部に上場する企業のうち、1,858社がガバナンス報告書を提出したとのことです。全73原則を「コンプライ」した企業は11.6%にあたる216社だったとのことです。「エクスプレイン」された原則で多かったのは、「取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、結果の概要の開示」、「議決権の電子行使のための環境整備、招集通知の英訳」、「社外取締役2名以上の選任」などでした。日本でなじみの薄かった取締役会評価、適任の人材確保が難しいと言われた社外取締役の2名以上の選任などはコード制定当時から様々な議論があったものでした。もっとも私は「コンプライ」することが重要ではなく、その企業の成長段階や内部事情などに応じて、その企業の考え方がきちんと「エクスプレイン」されていれば良いと考えています。

私が担当している輸送用機器セクターでも、ガバナンス報告書に印象的な記述がいくつかありました。一点目は中期経営計画の公表に対するスタンスです。コーポレートガバナンス・コードにおいては株主に対するコミットメントの一つ、情報開示の充実などから中期経営計画を公表すべきとされていますが、中期経営計画を公表していないある企業では経営環境の変化が激しい中で、迅速かつ柔軟に最適な経営判断を行うとともに、投資家・アナリストに経営戦略や財務状況等を正確に理解してもらうための情報開示のあり方として、長期的な経営戦略、ビジョン、単年度毎の業績見通しを公表すると「エクスプレイン」し、自社の考えを述べられていました。私個人としては為替、経済状況などに前提条件を置きながらも中期経営計画の公表によって具体的経営戦略や注力したいKPI※などを示していただいたほうが、中長期的な視点での投資家・アナリストとのコミュニケーションでは有益ではないかとは考えていますが、その考えもよく理解できます。ここで重要なのは中期経営計画の公表の是非ではなく、ガバナンス報告書でその企業の考えを「エクスプレイン」していただくことで対話のきっかけが生まれることではないかと思います。建設的対話を通して企業価値拡大に繋げていければ良いと思います。二点目は、政策保有株式についての記述です。画一的な表現が多く、真意を測りかねる印象を持ちました。今後の対話において保有の意義、リスクやリターンをどのように考えているのかを確認していきたいと考えています。他にも、10原則以上について「エクスプレイン」をした企業の例や、コードをきっかけに株主還元についての考え方が整理されたと感じる企業の例などが目を引きました。

弊社では定期的なミーティングにおいて、各アナリストがESG、対話などについて好事例を持ち寄って知識、事例の共有化を図る取り組みを行っております。ガバナンス報告書についても好事例/改善事例などについて共有しております。他セクターの事例を盛り込みつつ、対話を深めるきっかけとしてガバナンス報告書を今後も活用していきたいと考えています。

  • KPI(Key Performance Indicator):重要業績評価指標 、企業が目標の達成度を定量的に評価するための指標のこと。

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