金融市場NOW

英国の合意なき離脱で一層高まる金融緩和の波

2019年08月26日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

期限まで約2か月、英国は国内外が納得する離脱方針を決定できるか

  • EUからの合意なき離脱も辞さないジョンソン政権の動きを止めるため、野党勢力は対抗策を探るも現実的な手段は限られており、合意なき離脱の可能性が高まっている。
  • 景気刺激のため英国も金融緩和に動けば、世界的な金融緩和の波が一層高まり日本株への影響も。

高まる合意なき離脱の可能性

英国議会が再開される9月3日を控え、英国政府のEU(欧州連合)離脱方針を巡る政治の動きが激しくなってきています。ジョンソン首相は、EU側との合意の有無に係わらず離脱期限である10月31日の離脱を表明しています。EU側との離脱協定の再交渉は進展しておらず、合意なき離脱の可能性が高まっています。野党:労働党はジョンソン政権の動きを止めるため、他の野党などに呼びかけ、議会再開後に内閣不信任決議案の提出を探るなど打開策を検討しています。しかし、離脱期限までの2か月あまりで実行可能な手段は非常に限られているとの見方もあります。フランス政府は合意なき離脱が、現在の中心的なシナリオであると表明しました。

英国報道機関は、合意なき離脱の影響予測に関する首相府の内部文書(取得先は不明)を公表しました。文書では、生鮮食品の価格上昇や医薬品の不足、税関検査の混乱などが指摘されています。報道をうけてゴーヴ大臣(合意なき離脱への対応担当)は、文書は前政権時に作成されたもので、影響予測は誇張されているとコメントしていますが、2018年のイングランド銀行(BOE:中央銀行)の試算では、GDP(国内総生産)に最大8%程度のマイナスの影響が及ぶと報告されています。

BOEは合意なき離脱に対応する利下げも

グラフ1:離脱決定後の英国各金利と為替推移

  • 出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

BOEは国民投票により離脱が決定した直後の2016年8月に包括的な景気刺激策として、利下げを含む金融緩和を行いました。それ以降は、ポンド安に伴う輸入物価の上昇によるインフレ圧力の高まりを警戒し、緩やかな金融引き締め(2度の利上げ)(グラフ1)を行ってきました。しかし、ジョンソン政権の誕生により合意なき離脱の可能性が高まる中、2019年4~6月期GDP(速報値)は前期比ー0.2%となり、7月の製造業PMI(購買担当者指数:速報値)は3か月連続で好不況の境目となる50を割り込むなど景気の先行き不透明感が漂っています。8月の金融政策委員会では、政策金利が据え置かれましたが、市場では10月末以降の利下げを織り込む動きが徐々に高まっています。

一層高まる金融緩和の波

グラフ2:日本株と為替の推移

  • 出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

仮にEU離脱の前後にBOEが金融緩和に転じた場合、欧米金融当局が緩和姿勢を示す現在の状況に、新たに英国が加わることになります。欧米の緩和姿勢をうけた世界的な金融緩和の波が一層高まることが想定されます。各国金利低下による内外金利差の縮小や投資家のリスク回避姿勢による円高が進んだ場合、日本株式市場は下落しやすい傾向(グラフ2)があり、合意なき離脱は他国株式と比較して大きな重石となることも想定されます。

金融市場動向一覧へ

「金融市場動向」ご利用にあたっての留意点

当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。

【当資料に関する留意点】

  • 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
  • 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
  • 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
  • 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
  • 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。