アナリストの眼
リコール問題から再認識した「謙虚さ」
掲載日:2010年09月22日
- アナリスト
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投資調査室 横田 茂之
この4月から輸送用機器セクターを担当しております。まだ私が輸送用機器セクターを担当する前に起こったトヨタのリコール問題は、未だ完全に収束したわけではありませんが、8月10日の米運輸省の報告では、本件焦点の電子制御システムの欠陥について暫定的な「シロ判定」を下され、徐々に終焉に向かいつつあります。
様々な観点から残念だったこの問題ですが、印象に残っていることの一つに、議会証言である一人の女性が涙ながらに急加速を訴えていたシーンがあります。結局のところ、上記米運輸省の報告では、消費者が「意図しない急加速」を訴えた58件の調査において、半数以上でブレーキが踏まれていなかったわけですが、このニュースを聞いて、あるファンドマネジャーから貸していただいた行動ファイナンスの本のことが頭をよぎりました。
人間の記憶は、記銘(覚える、見る)→保持→想起(思い出す)という過程を経て形成されます。この人間の記憶は、過去の経験が整然と蓄積したデータベースのように、その情報を必要なときに引き出すことができると考えられがちです。
しかし実際には、その引き出す過程において、記憶を不正確にする要因が各段階に応じて存在します。記銘段階ではどれだけ緊張を感じているかというストレス、保持段階では保持時間、事件に対する新しいニュース、想起段階ではその質問の仕方などがその要因として挙げられます。特に、保持時間が長い記憶においては、想起段階までに度々装飾を加えられ、再構築される性質のものと言われてます(所謂後知恵)。
今回リコール問題にこれらを当てはめ、意図しない急加速が生じた際の強烈なストレス、その急加速の時間はごく短時間でかつ一回であったこと、加えて様々なニュース、及び質問に応じたときの環境などを考えると、一人ひとりの証言の正確性については検証の余地はあったはずです(これも所謂後知恵でありますが・・・)。
少し話しは変わりますが、よく何等かの結果が生じた後に、「全くの想定通りの結果でサプライズは無い」とか、「こうなる事は始めから予想していた」と、(以前のコメントと異なる)コメントを残す人は、職業に関わらず少なくありません。これも、「結果」という新しいインプットにより、自分の事前予想を装飾したためと考えられます。
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