アナリストの眼

ものづくり改革

掲載日:2010年08月23日

アナリスト

投資調査室 川村 高司

資源価格の高騰が産業界の危機感を強めています。中国、インドなど新興国の著しい経済成長が背景にありますが、ただそれは一面をみているのに過ぎず資源調達においては、以下4点の構造的課題を抱えていると思います。なおここでは鉱物資源について述べます。

第一に環境問題と人権問題。映画とはいえ「アバター」を見て途上国における資源開発の難しさを目の当たりにしました。先住民が住む土地に鉱床があるため、先住民、周りの豊かな森林ともども強制退去させられる内容で、改めて環境や人権問題について考えさせられました。先住民との話し合いによって開発・生産期間が長期化するためコストは少しずつ高くなります。これが資源高の大きな要因ではないにせよ、地球全体のサステナブルな成長を見据えると見逃せない課題です。

第二に資源調達の新興国依存です。欧米地域は資源の減退期に入り、中東、アフリカ、アジア、南米などへの依存が高まる方向にあります。石油をはじめ、レアメタル(希少金属)の多くはこうした地域に埋蔵されています。石油は言うまでもないが、レアメタルはリチウムイオン電池などIT産業の発展に欠かせないものです。こうした地域の依存が地政学的リスクとして材料視される向きもあり、資源価格高騰につながることが懸念されます。

第三に資源の有限性です。本当に資源は枯渇するのか、という点については賛否両論あるとみられますが、現実に起こっていることは、例えば鉄や銅などでは高品位(鉱物含有率の高い)の資源は大体見つけ尽くされ、残る資源の品位が低くなる(鉱物含有率が低下する)傾向です。これらの資源の開発には、遠距離化し地中深くまで採掘することもあり、生産コストが徐々に高くなります。しかしながら今後は新興国の需要拡大を考慮すると、この低品位な資源をいかに有効活用していくかが重要な課題になると認識しています。

第四は資源メジャーや中国による囲い込みの動きです。鉄の原料となる鉄鉱石であればBHPビリトン、リオ・ティント、ヴァーレの資源メジャーが海上輸送量の70%に占めるほどの勢力となっており、販売先である鉄鋼メーカーへの価格交渉力を高めています。最近の鉄鉱石価格の妥結状況からすると、鉄鋼メーカーは資源メジャーの言い値で調達しているようにみえます。また中国も資源確保を国家戦略として明確に打ち出しています。生産量が中国で約90%を占めるレアアース(希土類:ネオジム、ディスプロシウム等)についてですが、中国はその輸出枠を大幅に絞り始めるという資源ナショナリズムの動きに加え、自国にある豊富な資源でも貪欲に他国に獲得していくとみられています。市場ではこうした動きに批判はあるものの、国家が戦略的に動くことに不思議はありません。

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