アナリストの眼

日本の食品会社の海外事業展開(2)

掲載日:2010年07月27日

アナリスト

投資調査室 齊藤 毅人

今後5年~10年以内に多くの日本食品メーカーにチャンスが訪れよう

中国もかつて日本が経験したように国別GDP規模で世界2位となり、その後国民一人ひとりの暮らしが豊かになっていくと思われる。その中国の当面の目標は、国民1人当りのGDPの底上げに尽きる。そのための施策が次々と打たれ、最低賃金の大幅引上げ等もその一環である。

国民一人ひとりがより豊かな生活を目指す段階で、人間の根源的な欲求であるより美味しいものを食べたい、その欲求を満たすための所得向上という条件は、中国が現在のペースで経済発展が持続すれば、5年~10年の間で中間所得層が大幅に増え、一人ひとりの購買力向上で満たされよう。

既に中国・上海では東京とあまり変わらない食生活が値段を問わなければできるという。一般的な感覚からまだ高いが既に日本食品メーカーの食品は店頭に並んでいるという。それだけ、一部富裕層が消費できるインフラは整いつつある。

現在中国に進出している日本の大手食品メーカー曰く、「現在現地企業の2倍以上の価格差があり、数量は期待できないが粘り強く付加価値の理解につとめ、価格は引き下げないで彼らの所得向上を待つ。」という“待ちの戦略”を展開中の会社もある。

数年後には、こうした一部の富裕層向けの日本食品メーカー製品も、彼らの所得向上につれて日本企業が国内市場向けに供給しているほとんどの食品は、ほぼ変わらない値段でもしくは現地向けに若干廉価版にした価格で受け入れられ、巨大な新興市場の向けに違和感なく提供可能になるだろう。

いまだ日本食品メーカーの技術力は海外食品メーカーに比べ技術優位性健在

日本の食品メーカーの総合的な技術力は、自動車や鉄鋼や機械など中国や韓国・台湾企業にキャッチアップされた多くの分野とは異なり、安心安全の技術や高度な食品加工技術格差がいまだに存在し、実際に多くの中国・台湾企業は日本メーカーと提携を希望するケースや合弁を希望するケースが多い。

また現地の消費者に受け入れられる味に加工する技術は、日本の移ろいやすい消費者の味覚や嗜好に応じた新製品を開発する技術にて立証されており、現地向け開発は既に取り組んでいる。また「失われた10年」といわれる日本国内の厳しいデフレ環境下で小売業の出すPBによる価格圧力、厳しい日本の消費者の要求する味覚に応じながら、法律や規制が要求する品質基準を守りながら、限られたコスト内で製品を開発製造する技術力は、現時点で大きな技術優位があると思われる。

真の成長企業を見極める

現在海外進出中の日本企業も現地行政府と手続きから法律・規制の違いに戸惑ったり、事業所および工場建設・生産立ち上げ、販路開拓など実際に国内で海外進出を事業決定したときとは違い想定していなかったことが、実際にはじめてみると起こるケースもあると思われる。

それも近い将来出現する巨大消費市場開拓に自社の成長戦略を托すために必要な投資および経験であると思われる。

そうした企業の取組が実際に進出先の市場で定着し、安定的な利益を生み出す仕組みづくりが整いつつあるか、地元企業や欧米企業との競争条件はどうか、独資(100%自己資本)戦略は間違っていないか、地元合弁先とはうまく機能しているか、などを意識して調査分析を心がけています。全ての進出企業が成功するとは限らない中、巨大消費市場出現の流れを捉え成長できる企業を見極めていく調査姿勢で臨んでいきたいと思います。

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