アナリストの眼
構造転換期
掲載日:2010年03月29日
- アナリスト
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投資調査室 渡邊 亜希彦
先日、2010年中に閉鎖が予定されている、ある地方百貨店の店舗を訪れる機会がありました。行ってみて改めて実感したのが値段の高さです。冬物商品のセール期でしたがそれでも高い。日ごろから、プライベートを含め色々な売場・商品を見て回って自分なりの相場観は持っているつもりですが、久々に、”この商品を誰が買うのか・・”と、見た瞬間に感じてしまいました。
その百貨店があるエリア一体は、従来は県内屈指の商業地区で、若い人も流行を求めるならばその付近に集まっていたようです。しかし、そこからおよそ1~2km離れた地域の開発が進み、近年では人の流れがすっかり変わり、賑わいがごっそり移ってしまったようです。百貨店不振の背景として、確かにこうした外部要因があるのは事実です。ショッピングセンターの増加や駅ビル開発の進展、有力専門店の成長で客数を奪われた面があるのは否定できません。
しかし、百貨店自身が持つ内部要因も影響としては大きかったと思います。具体的には、高コスト体質、変わり映えの無いテナント、商品力の低さ、価格競争力の低さであり、また、それらが複合的に絡み合って生じている、という事です。百貨店は人件費中心に高コスト体質であるため、テナントから多めに賃料を得る必要があります。すると、百貨店にテナント入居できるのは高賃料に耐えうる一部アパレルのみとなり、結果的にどこの店舗も似たようなテナント構成となります。消費者ニーズが変わりゆく昨今において、結果的に多種多様なニーズを満足させるブランド展開に乏しくなり、さらに売れ筋商品の追求が進んだ事も業界全体の同質化に拍車をかけました。また、価格面では、高賃料の百貨店売場で利益を確保するため、テナントであるアパレルからの卸値(値入れ)が高くなり、商品の最終売価も高めとなります。これらの結果売上獲得力が低下すると、在庫リスクを負うアパレルとの交渉上、魅力的な商品の導入もより困難になっていきます。こうした事が互いに相関し合って近年の苦境に至ったと思われます。
不景気や競争環境悪化などの外部要因はある程度仕方ない部分もありますが、記述の店舗についても、継続的に体質改善に努め、常に顧客の来店動機を作り続けることで、自社店舗のみならず、地域の賑わいを維持することにも繋げられたのではないかと思わずにはいられませんでした。業績不振の地方百貨店の現状について、改めて実感した次第です。
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