金融市場NOW

フランス全土でマクロン政権への抗議デモ

2018年12月07日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

抗議デモを受け増税を断念 構造改革への試練続く

  • 大規模なデモの収束に向けて、マクロン政権は2014年から続く燃料増税の中止を表明
  • 概ね堅調な景気が続く中、政府は構造改革と将来の経済成長への財源確保を急ぎたいところだが、国民の理解を得ながらの改革は困難を伴うと思われる

政府は増税の断念を表明

フランスでは燃料価格が高騰する中、地球温暖化対策として排出される二酸化炭素に応じて課される燃料税(炭素税)が2019年1月より増税されることへの抗議からフランス全土で13万人以上の市民がデモを行っており、一部は暴徒化し死者が出るほどの事態に発展しています。燃料税は環境対策の一環として、電気自動車などへの乗り換えを狙いとしており、2014年から毎年増税が行われています。
フランス国内で一般的に使用されているディーゼル燃料は、過去12ヵ月で23%程度上昇しています。燃料価格上昇要因の3/4は原油価格の上昇によるものとされていますが、生活に自動車が欠かせない都市圏外地域の人々を中心に抗議活動が広がりました。政府は事態の収束に向けて、この冬のガスや電気料金の値上げ停止と増税の延期を既に表明していますが、5日には更に増税を中止し、税収分を2019年度の予算より除外することとしました。抗議者側は政府が本当に増税を中止するのか懐疑的に見ているとも言われており、事態が収束するのかは今だに明確になっていません。デモの激化により、デモ期間中のレストランの売り上げは20%~50%程度、小売りも20%~40%程度落ち込むとの見方もあります。フランス経済への悪影響が懸念されます。

表1:マクロン政権の主な政策

項目 主な内容
財政健全化 医療費削減や失業対策への給付削減、公務員削減などにより5年間で600億ユーロの歳出削減
成長・雇用関連 失業給付制度の強化、労働法改正(企業単位の交渉権拡大)、職業訓練や環境・エネルギー対策への投資など
税制改革 法人税率の引き下げ(2022年までに33%→25%)で成長への投資促進、金融所得に対する統一税制の導入
  • 前オランド政権時より導入
出所:各種報道資料等をもとにニッセイアセットマネジメントが作成
燃料税 2014年4月から燃料消費に課税。二酸化炭素排出量1トン当たりの税率7ユーロから開始、年々引き上げ2018年は44.6ユーロまで増加

増税分は財政赤字の補てんへ。難しい舵取り

グラフ1:マクロン大統領就任後の株と債券の推移

※フランスの代表的株価指数 出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

デモが行われた背景にはマクロン政権の経済政策への不満があるものと見られます。就任後、構造改革を推進し、将来の経済成長の源泉となる労働制度改革や税制の見直しなど一部には痛みを伴う改革を推進してきました。元々、税や社会保障などの負担度合を示す国民負担率が他の先進国と比較して重かったことに加え、税制見直しにより2018年は低所得者層の1/4程度が収入を減らし、上位1%の富裕層は恩恵を受けているとの調査結果もあり、国民の不満が蓄積されやすい状況にありました。

政府は厳しい状況に置かれながらも、構造改革を進めつつ、技術革新や競争力強化への財源確保とEU(欧州連合)が求める財政規律強化を目指しています。ただ、今年の燃料増税による増収分(約340億ユーロ)は環境対策などへの財源ではなく、その約8割(約270億ユーロ)が財政赤字の補てんに回る計画であり、マクロン大統領の支持率が低下する中(直近は20%台前半) 、国民の理解を得ながら政策を遂行していくには、今後も難しい舵取りが求められると思われます。

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