金融市場NOW

鈍い国内物価の上昇率

2018年06月28日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

欧米の物価が上昇の兆しを見せる中、国内物価の上昇は鈍い。

  • 6月の日銀金融政策決定会合後の記者会見では、物価上昇の鈍さに質問が集中。日銀はネット通販の伸長などが物価の上昇を抑えているとの見解を公表。
  • 黒田日銀総裁は物価目標達成には賃金の上昇が必要との認識を示す。次回会合で示される日銀の『物価の現状や見通し』に注目が集まる。

物価上昇の鈍い日本。ネット通販の伸長も原因か

6月の日銀金融政策決定会合では、引き続き金融政策の現状維持が決定されましたが、会合後の黒田総裁の記者会見では物価上昇の鈍さに関する質問が相次ぎました。総裁は次回の7月会合時に公表される展望レポート(経済・物価情勢の展望)に向けて議論を重ねるとしました。物価上昇率は2013年の黒田総裁就任以来1%程度に留まっています。利上げサイクルに入った米国を始め、欧米の物価は徐々に上昇基調となっており、金融政策の正常化に向けて動き出しています。20日に公表された4月の金融政策決定会合議事録では、物価が上昇しない原因は「人手不足などの賃金上昇コストを省力化投資やビジネスプロセスの見直しによる生産性の向上によってカバーして価格に転嫁することを避ける動きがある。」などとしました。また、18日に公表された日銀スタッフの論文によると、実店舗を持たず商品を安く販売できるネット通販の伸長により実店舗小売店が価格を下げ、消費者物価指数の上昇を抑えているとの分析がありました。黒田総裁の会合後の記者会見でも同様の質問に、最安値が瞬時に把握できるネット通販の伸長により、実店舗の小売り業者が厳しい価格競争にさらされ、物価が上昇しにくい要因になっているといった趣旨の発言がありました。ただし、こういった要因は欧米でも当てはまることであり、日本特有のものではないとの指摘もあります。

物価目標達成には賃金の上昇が必要

20日ポルトガルで開催されたECB(欧州中央銀行)のパネル討論会で黒田総裁は物価安定目標達成には政府が求める3%の賃上げが必要だとの認識を示しました。今秋の国内最低賃金は3年連続20円超上げの見通しであることやパート時給が上昇基調を継続していること、今夏のボーナスの支給額の大幅増加など一部では賃金の上昇が見られます。ただし、月給増など将来にわたって収入が増える安心感がなければ消費額は増えず、消費行動の鈍化は物価停滞を招くことも想定されます。また、国内事業より海外事業において高い生産性を実現している企業では、国内での賃上げに慎重になっているとの見方もあり、本格的な賃上げには今しばらく時間がかかりそうです。一方で消費者物価指数の先行指標とされる5月の企業物価指数(速報値)は前年同月比で+2.7%と上昇基調を示し始めています。市場では7月公表の展望レポートでの物価の現状や見通しの内容次第では、それが次なる金融政策を読み解く糸口になるとの見方もあります。

グラフ1:直近3年の物価指数の推移

出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

グラフ2:直近3年の失業率と賃金指数の推移

※季節調整済賃金指数:2018年4月データまで。
2015年平均値を100とした指数。5人以上の事業所の実質賃金をもとに算出。
出所:厚生労働省、ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

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