金融市場NOW

米中貿易摩擦緩和の兆しも

2018年03月29日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

米中間の貿易摩擦緩和に向け水面下の交渉が開始された模様

  • トランプ政権は対中貿易赤字の縮小を目的に、知的財産侵害への制裁措置等を発表。米国が求めるのは今後1年間で1,000億ドルの赤字削減につながる具体策。
  • トランプ大統領は強気の構えを崩していないが、水面下では貿易問題解決に向けた取り組みが行われている模様。当面は米中両国のさや当てが続く可能性もあるが、最終的には解決策が見いだされ、貿易戦争に発展するとの懸念は杞憂に終わるものと考える。

(1)米国のモノの貿易赤字等の推移

2017年の米国のモノの貿易赤字額は全体で8,112億ドル(約86兆円)。その内、中国が3,757億ドル(約40兆円)と全体の46%を占めています。同比率は2000年の19%から倍以上に拡大しています(グラフ1)。トランプ政権は今後1年間で1,000億ドルの赤字削減につながる具体策を中国に求めています。

2016年時点で、中国は輸出の約2割を米国に依存しています。一方、米国の最大の輸出先はカナダやメキシコ(各々2割弱)であり、中国向けは1割弱です。

米国の対中国のモノの貿易総額(輸入と輸出合計)が増加傾向を続け、2017年時点で約6,400億ドルとなっています。また、世界のモノの貿易総額に占める米中合計額の比率は2005年の19%から2016年には23%に拡大しています(グラフ2)。米中関係がもつれた場合、世界貿易への影響は大きいと見られています。

2016年の米国から中国への主な輸出品目と金額は、(1)雑穀、種苗、果物等が150億ドル、(2)航空機が150億ドル、(3)電子機器が120億ドル、(4)機械が110億ドル、(5)自動車が110億ドルとなっています。一方、中国からの輸入は、(1)電子機器が1,290億ドル、(2)機械が970億ドル、(3)家具・寝具が290億ドル、(4)玩具・スポーツ用品が240億ドル等となっています。尚、米国の中国からの鉄鋼やアルミの輸入額は2017年時点で46億ドルです。

グラフ1:米国のモノの貿易赤字

出所:米商務省のデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

グラフ2:米国の対中国のモノの貿易総額推移等

出所:米商務省とWTOのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

(2)中国の米国債保有状況

グラフ3:米国債の海外投資家保有比率

出所:米財務省のデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成

中国は2018年1月末時点で約1兆1,700億ドル(全体の約2割)の米国債を保有する、米国外では最大の米国債の保有者です(グラフ3)。

中国が米国債の保有額で初めて日本を抜いて世界一となったのは、リーマン・ショックが起きた2008年9月です。経済危機対応で増発された米国債の一部を中国が引受けました。

(3)米中貿易摩擦

トランプ政権は3月22日、中国が知的財産権を侵害しているとして、通商法301条に基づき、最大で1,300品目、600億ドル分に25%の関税(関税額は最大で150億ドル)をかける措置を決めました。品目や発動開始日等は未定です(3月27日時点)。また、翌日23日には米国の安全保障を理由に、通商拡大法232条に基づき、鉄鋼に25%、アルミに10%の高関税を課す措置を発動しました。同関税の対象国からは、7ヵ国・地域が除外されましたが、中国や日本等は適用対象国となりました。適用除外となった7ヵ国・地域からの輸入量構成比(2017年)は、鉄鋼で7割弱、アルミで5割強と全体の半分以上に達しています(表1)。

表1:米国の鉄鋼とアルミの輸入額

出所:米商務省、ITCのデータをもとにニッセイアセットマネジメントが作成
  鉄鋼輸入額(2017年) アルミ輸入額(2017年)
10億ドル 構成比(%) 10億ドル 構成比(%)
追加関税の除外国・地域計 19.5 67 12.6 54
EU(欧州連合) 6.2 21 1.9 8
カナダ 5.1 18 8.5 36
韓国 2.8 10 0.2 1
メキシコ 2.5 9 1.0 4
ブラジル 2.4 8 0.2 1
アルゼンチン 0.2 1 0.6 2
豪州 0.2 1 0.2 1
追加関税の対象国計 9.6 33 10.8 46
(内)中国 1.0 3 3.6 15
(内)日本 1.7 6 0.3 1
全世界 29.1 100 23.4 100

米国の鉄鋼等への追加関税措置発表を受け、中国政府は3月23日、対抗措置として、果物、ワイン等120品目に15%、豚肉やアルミスクラップ等8品目に25%の関税を上乗せする案を公表しました。中国政府の発表によると、関税の上乗せ額は計6.5億ドル(約700億円)であり、金額は米国が中国産の鉄鋼やアルミにかける追加関税額(中国側統計で6.9億ドル)とほぼ等しくなるとしています。また、中国政府はそれ以外に、米国債の購入減額等あらゆる選択肢を検討していることも表明しました。

(4)米中貿易摩擦の経済への影響と今後の見通し

IMF(国際通貨基金)によれば2017年の米国の実質GDP(国内総生産)は19.4兆ドル(約2,060兆円)、中国は11.9兆ドル(約1,260兆円)であり、現時点で判明している米国の制裁措置や中国の報復措置が発動されたとしても、新たに発生する関税額は最大で200億ドル程度、実質GDPの1%未満であると見られます。また、中国の米国債購入減額については、米国債の価格下落で保有分の価値が減少して損失を被る可能性があることや、他に有望な運用先も見当たらないと思われるため、減額を行うにしても慎重に進めるものと見ています。株式市場等が当問題で神経質な動きとなっているのは、両国の貿易摩擦がエスカレートし、世界的な貿易戦争へと発展することを懸念しているからであると考えられます。

トランプ政権は中国の知的財産権侵害に制裁を行う構えを崩していませんが、一部では貿易問題解決に向けた動きも見え始めたようです。3月26日の米紙報道によれば、中国による米製品(半導体や自動車等)の輸入拡大策検討等、米中両政府が水面下で交渉を始めた模様です。また、その前日の25日には、ムニューシン米財務長官がトランプ米大統領が命じた500億ドル以上の中国製品への関税を賦課しなくても済むよう、米国と中国が合意に達することは可能との楽観的な見方をテレビインタビューの中で示しています。

3月25日、同米財務長官は韓国が鉄鋼の米国向け輸出に数量枠を設けることで合意したことを明らかにしましました。トランプ政権は今年11月の中間選挙に向け、政権公約である米国第一主義を推し進めるべく、関税発動をちらつかせながら譲歩を迫る戦略を取っているように思われます。同様のやり方で貿易赤字削減に向けた対応を中国から引き出そうとしているものと考えられます。3月27日には、トランプ政権が中国による米国の技術分野への投資を禁止するために大統領権限の行使を検討中との報道が流れる等、米国は中国との交渉において有利な条件を引き出すために今後圧力を強めることも予想されます。一時的には米中間のさや当てが激しくなる可能性もありますが、最終的には両国が歩み寄り、貿易戦争に陥る事態は避けられるものと判断しています。

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