金融市場NOW
米国の「財政の崖」をめぐる状況と今後の市場見通しについて
2012年11月13日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
グラフ1:大統領選・議会選の結果

先週6日に行われた米大統領選挙では、直前まで接戦が続きましたが、現職のオバマ大統領が再選されました。一方議会では、上院は民主党、下院は共和党が引き続き多数を占め、両院を異なる政党が制する「ねじれ」の状況が続く形となりました(グラフ1)。選挙結果をうけて、年末の「財政の崖」回避をめぐる大統領と議会の交渉が難航する懸念から、週後半にかけて世界の株式は急落、長期金利も低下しました。
グラフ2:財政赤字の見通し

年末には時限措置である「ブッシュ減税」が失効、昨年夏の債務上限問題の際に合意された国防費・メディケア予算の「強制債務削減」も来年初めにスタートします。「ブッシュ減税」の失効による実質増税や歳出の削減によって、財政赤字の対GDP比率は2013年に3%以上も急低下する形となりますが、これは景気に悪影響を与える可能性があることとして懸念されています(グラフ2)。最終的には、減税延長や歳出削減延期などの緩和策がとられる可能性が高いものの、「ねじれ」議会のもとで短期間で合意に至る必要があり、市場の警戒感が高まりやすい状況といえそうです。
税制や予算をめぐる両党の見解は、共和党がブッシュ減税の全面延長を求める一方、民主党(オバマ大統領)は富裕層への増税を強硬に主張するなど、相違点も多くなっています(表1)。政権運営にあたり議会の協力を得る必要から、大統領が最終的には譲歩するなど何らかの妥協点を見出すものと思われますが、当初は意見の隔たりが大きく、合意には時間を要するとみられます。
表1:税制・予算をめぐる両党の主張
オバマ大統領 (民主党) | ロムニー候補 (共和党) | ||
---|---|---|---|
ブッシュ減税 | 富裕層除き延長 | 全面延長 | |
株式課税 | 富裕層対象に増税 (配当39.6%、売買益20%) |
現行15%維持 | |
個人所得税 | 富裕層増税 (最高35%→39.6%) |
減税 (最高35%→28%) |
|
法人税 | 35%→28%へ引下げ | 35%→25%へ引下げ | |
強制歳出削減 | 延期 | 延期 | |
国防費 | 削減 | 増額 | |
オバマケア※1 | 推進 | 廃止 |
グラフ3:選挙後の株価(S&P500)

今後の株価への影響はどうでしょう。直近5回の選挙後の株価をみると、投票日以降に株価が大きく下落したケースが2回ありますが(グラフ3)、2008年はリーマンショック、2000年はITバブル崩壊といずれも景気の悪化が株価下落の主因であったと考えられます。「財政の崖」への警戒は必要ですが、最終的に妥協が図られ、景気への大きな影響の懸念が緩和されれば、株価への影響も限定的であると思われます。
金融市場動向
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