金融市場NOW

J-REITによる海外不動産の取得が実質可能に

2012年07月19日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
  • 7月18日の日経新聞朝刊に、政府がJ-REITによる海外不動産の取得を実質的に解禁し、2013年に提出する投資信託法(投資信託及び投資法人に関する法律)の改正案に盛り込む方針であるとの記事が掲載されました。
  • J-REITが海外不動産を取得すること自体は2008年の東京証券取引所の上場規定改定で認められましたが、現時点で海外不動産を保有しているJ-REITはありません。
  • その主な要因として、1.実務上の制約と2.制度上の制約が考えられます。
実務上の制約とは

海外不動産の取得・運営・管理等に関するノウハウが不足している。
為替ヘッジコストや鑑定評価取得に係る再委託費用等新た費用が発生する可能性等。

制度上の制約とは

海外では不動産会社が作る特定目的会社(以下SPC)が不動産を保有しているケースが多く、そのSPCを買収して不動産を取得する場合には、SPCの株式を購入する必要があります。
しかし、現在の投資信託法(第194条:資産の運用の制限)はJ-REITが投資先企業(この場合SPC)の株式の過半を保有することを禁止しています。結果として共同保有の形態にならざるを得ないような規定となっています。単独で不動産を保有したいJ-REITにとっては大きな障害です。

制度上の制約の解消

今回の投資信託法改正では、株式の過半を保有することを禁じている規定から海外のSPCを例外とする対応が行われる予定のようです。

海外不動産投資解禁のメリットとデメリット

メリット

  • 保有不動産の地域を分散することにより、地震リスクや賃料変動リスク等の軽減が図りやすくなる。
  • 高い成長の見込める新興国の不動産を組入れることでJ-REITの魅力が増し、海外投資家等の資金を呼び込みやすくなる可能性がある。
  • 海外に進出している小売業や物流業等が保有物件をJ-REITに売却することで新たな資金調達ができ、新たな出店等が行いやすくなる(日本企業の海外ビジネスの支援に繋がる)。

デメリット

  • 為替リスクの管理等新たな業務が発生する。
  • 海外不動産市場の価格変動リスクを受けることになる。

今後の見通し

J-REIT市場の時価総額は2007年の約7兆円から現在の約3.6兆円まで半減し、低迷した状態が続いています(グラフ1)。一方、海外のREIT市場の中には、海外の不動産の積極的な取得等を通じて、規模を拡大させているところもあります。例えば、シンガポールやオーストラリアの市場には日本の不動産に特化したREITも上場されています。
今回の規制緩和を通じて政府はJ-REIT市場の活性化を図る考えのようです。不動産運営・管理ノウハウ不足等実務上の課題から、一気に海外不動産投資が活発になる可能性は低いと見ていますが、資金調達手段の多様化等の取り組みも含め、J-REITに対する信頼感が高まるものと思われます。

グラフ1:上場銘柄数・時価総額・資産総額の推移

出所:Quick、不動産証券化協会データを基にニッセイアセットマネジメント作成

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