金融市場NOW
ユーロ圏の構造問題(競争力の二極化)
2012年02月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
- ユーロ圏債務問題の根本には通貨統合により形成された域内の経常収支不均衡問題があると言われています。
- ドイツの黒字(債権)で周縁国の赤字(債務)を賄い続けている現行支援体制には限界があります。
- 経常収支不均衡・債務危機の解消には、赤字国がドイツとの競争力格差を是正する必要がありますが、財政緊縮下では非常に困難であると思われます。
グラフ1:ユーロ圏経常収支の対GDP比寄与

ユーロ圏の構造問題は、競争力に差があるユーロ参加国を共通の通貨・金融政策で管理する一方、財政政策は各国任せになっていることに原因があると考えられます。
競争力の高いドイツはユーロ発足後、為替変動を気にすることなく域内向け輸出を伸ばすことが可能になりました。その一方でPIIGS諸国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)など重債務国は、ドイツの信用を背景とした金利低下の恩恵を受け、実力以上の購買力を手に入れました。
各国は借り入れを増やし、銀行は過剰信用を提供し、過剰消費を続け、不動産価格の高騰を招きました。この過程でドイツからの輸入が増加し、ドイツの経常収支黒字が拡大する一方、PIIGS諸国など重債務国の経常赤字は拡大することになりました(グラフ1)。
グラフ2:ユーロ圏労働生産性成長率の格差
(ユーロ発足時の各国の労働生産性を100とする。)

前述の経常収支不均衡が、ユーロ圏債務問題の根本にあります。ユーロ圏は全体で見れば経常黒字なので、ドイツの黒字(債権)でPIIGS諸国の赤字(債務)を賄い続けることは理論上可能です。だからユーロ圏債務問題はユーロ域内で解決可能との見方もあります。
しかし、ドイツは更なる支援の負担増に難色を示しており、現行の支援体制には限界があります。
経常不均衡問題を解消することがユーロ圏債務危機解消には必要です。これには厳しい財政緊縮下で各国がドイツ並みの競争力をつけることが必要です。しかし、グラフ2に見られるように、ドイツとの労働生産性の成長率には格差が生じており、労働生産性の対ドイツ格差はもはや解消不可能に見えます。
ドイツとの競争力格差を縮小しない限り域内経常収支不均衡問題は解決しないと思われます。
グラフ3:ユーロ圏各国の企業景況感指数

グラフ3はユーロ圏各国の企業景況感指数ですが、ドイツの一人勝ちが鮮明化しています。この指標はユーロ圏の根深い構造問題の反映といえます。
金融市場動向
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