金融市場NOW
ユーロ圏諸国の格付け見直しについて
2012年01月18日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
- S&P社によるユーロ圏ソブリン格付けは大半の国が今後1年~2年以内に更なる格下げリスクがあることを示唆している。
- イタリアのBBB+への格下げは、欧州債務問題の更なる火種となる可能性があり注意が必要。
- EFSFの格下げは市場に織り込まれており影響は限定的と考えられる。
格付け会社であるスタンダード&プアーズ(S&P)は1月13日にユーロ圏9ヵ国の長期債務格付けの見直しを発表しました。格下げは(1)2段階の格下げがスペイン、イタリア、ポルトガル、キプロス、(2)1段階の格下げがフランス、オーストリア、スロベニア、スロバキア、マルタ、となった一方、(3)格付けが維持されたのはドイツ、オランダ、フィンランド、ルクセンブルグ、ベルギー、エストニア、アイルランドです。アウトルックは「安定的」と評価されたドイツとスロバキア以外の国は「ネガティブ」とされました。「ネガティブ」は3分の1の確率で今後2012年もしくは2013年に更なる格下げの可能性があることを示唆しています。S&P社は格下げの背景として「過去数週間のユーロ圏におけるシステミックなストレスへの全般的な政策対応が不十分」であることを挙げています(表1)。
表1:S&P社によるユーロ圏17ヵ国の格付け状況
旧格付け | 新格付け(1/13) | |
---|---|---|
ドイツ | AAA | AAA(安定的) |
オランダ | AAA | AAA(ネガティブ) |
フィンランド | AAA | AAA(ネガティブ) |
ルクセンブルグ | AAA | AAA(ネガティブ) |
オーストリア | AAA | AA+(ネガティブ) |
フランス | AAA | AA+(ネガティブ) |
ベルギー | AA | AA(ネガティブ) |
スペイン | AA- | A(ネガティブ) |
スロベニア | AA- | A+(ネガティブ) |
エストニア | AA- | AA-(ネガティブ) |
イタリア | A | BBB+(ネガティブ) |
スロバキア | A+ | A(安定的) |
マルタ | A | A-(ネガティブ) |
アイルランド | BBB+ | BBB+(ネガティブ) |
ポルトガル | BBB- | BB(ネガティブ) |
キプロス | BBB | BB+(ネガティブ) |
ギリシャ | CC | CC |
グラフ1:格下げ後の対独10年国債スプレッド(利回り格差)の推移

出所:図表はブルームバーグ、各種報道のデータを基にニッセイアセットマネジメント作成
注目されたフランスの格下げは1段階に留まりました(AAA→AA+)。米国の格付けがAA+であることと比較すると、そもそもフランスのAAA格は過大評価ともいえたわけで、AA+への格下げには違和感はないと考えます。過去の格下げ時点以降の対ドイツ10年国債スプレッド(利回り格差)の推移を見ると、今回のフランスの格下げ(AAA→AA+)と同じ幅の過去の格下げ、例えばアイルランド(2009年7月)やスペイン(2009年1月)の格下げではスプレッドは安定推移しています。過去の例から判断すると、今後、フランスの対ドイツスプレッドが急拡大する可能性は低いと考えられます(グラフ1)。
問題はイタリア格下げのケースです(A→BBB+)。過去を見ると、格下げ後の対ドイツスプレッド拡大の分岐点は、BBB格であることがわかります。2011年4月のアイルランド、2009年12月のギリシャ、2011年3月のポルトガルは今回のイタリアと同じ格下げを受けた後、対ドイツスプレッドが拡大しました。ちなみに同じアイルランドの格下げでも2009年7月(AAA→AA+)の場合は対ドイツスプレッドは低位安定しています。今後のイタリアの利回り上昇や、イタリアの銀行の追随格下げには注意が必要です(グラフ1)。
S&P社は1月16日、EFSF(欧州金融安定ファシリティ)の格下げを発表しました(AAA→AA+)。これはフランス、オーストリアの格下げに連動するものです。昨年12月初旬に、S&P社は「EFSFを保証する国の一ヵ国でもAAA格を失った場合、EFSFの格下げにつながる可能性がある」と表明していたこともあり、市場は冷静に受け止めています。
グラフ2:EFSFの各国保証額

これまでEFSFの資金枠(4,400億ユーロ)は旧AAA格国の信用により裏付けされていました。仮にこれまでと同様の枠組みを維持すると、同資金枠はフランスの保証額1,585億ユーロとオーストリアの216億ユーロの合計1,800億ユーロ程減少することになります。ただ、メルケル独首相は「EFSFはAAA格である必要はない。AA+も悪くない格付け」とコメントしており、格下げを容認する姿勢を見せています。仮に格下げを容認し、AA+以上の国の信用を裏付けで支援枠を計算すると4,514億ユーロとなり、資金枠の減少は回避されることになります(グラフ2)。
金融市場動向
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