金融市場NOW
欧州問題の進展と米国株価反発・ヘッジファンドの動向
2011年11月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
- 欧州首脳会議でのギリシャ支援等に関する合意事項を市場は好意的に受け止めた。
- ギリシャの銀行株が主導し、欧州銀行株や米国株が下落方向で連動する展開は収束。
- ヘッジファンドの現状の運用不振は12月本決算に向けて、リスク選好相場の原動力になる可能性。
10月26日、27日に開催された欧州連合(EU)首脳会議で、ギリシャ支援、危機対応の枠組み整備、銀行システム強化に関する合意がなされました(要旨は表1参照)。市場は概ねこれを好意的にとらえ、10月28日は米国株に代表されるリスク資産全般が大幅に上昇しています。
表1
主要議題 | EU首脳会議での合意事項要旨 | 備考 |
---|---|---|
ギリシャ問題 |
|
|
危機対応の枠組み整備 |
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|
銀行システム強化 |
|
|
グラフ1

米国株は、欧州財政問題が重石となり、7月上旬以降は下落してきました。その動きは、欧州銀行株価指数・ギリシャ国立銀行株価の下落に連動する形で進行してきました。しかし、欧州金融安定化基金(EFSF)の機能拡充に関するユーロ圏全加盟国の議会承認がなされたこと、および、ギリシャ向け第6次融資の目処が立ったことなどを受けて市場は、一旦ギリシャ問題と、その他欧州銀行問題を切り離して考えるようになったようです。グラフ1の点線囲い部分を見ると、ギリシャ国立銀行の株価が下げ止まらない傍ら、欧州銀行株指数と米国株(S&P500)が上昇に転じたことが見てとれます。実際、欧州銀行の追加資本必要額(欧州銀行監督機構(EBA)発表)の対GDP比は、ギリシャが約13%と高い一方、他国はフランス約0.5%、イタリア約0.9%、スペイン約2.5%と低水準に留まっています。また、ギリシャ国債の保有比率はギリシャ国内の銀行が全体の約7割を占めています。従って、仮にギリシャ危機の他国への伝播がくい止められた場合、毀損するリスクがあるのはギリシャ国内の銀行に限られ、他国の銀行への悪影響は軽微とも考えられます。それが現在の欧州銀行株および、米国株とギリシャ国立銀行株の値動きの差異に反映されているのかもしれません。
グラフ2

相場の動向に大きな影響力を持つヘッジファンドのパフォーマンスは、10月初旬以降の米国株の上昇に劣後しています。この状況の中、ヘッジファンドの主要決算月である12月を前にして、ヘッジファンドは運用パフォーマンスの改善を目指し、否応なしにリスク選好を進め、株式市場に代表されるリスク資産に資金をシフトし、株価等が上昇する原動力となる可能性も視野に入ります(グラフ2)。
グラフ3

現在の米国株式市場はヘッジファンドの主関与と言う意味で、LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント:ヘッジファンドの一つ)が破綻した1998年以降の相場つきに似ているように見えます。当時の「LTCM破綻懸念→世界金融危機懸念→米国リセッション懸念」と現在の「欧州債務危機→世界金融危機懸念→米国リセッション懸念」の市場心理は似通ったものがあり、単なるアノマリーと無視することはできないかもしれません。現在の米国経済に対する市場のリセッション懸念は後退した感があり、今後、米国株式市場が1998年当時の動きをトレースする展開になるのかに注目したいと思います(グラフ3)。
金融市場動向
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