金融市場NOW
欧州金融安定ファシリティ(EFSF)の拡充案について
2011年10月04日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
- 現在各国で審議が進行中の欧州金融安定ファシリティ(EFSF)の最大融資可能額(4,400億ユーロ)引き上げは、欧州全体を巻き込むソブリン危機が起きた場合の救済規模としては不十分。
- 一方、ソブリン危機や銀行信用危機が他国へ波及せず、ギリシャ一国のみで食い止められた場合は、同基金でギリシャ国内の銀行救済は可能と見る。重要なことは、危機の波及を抑えること。
- 現状では、欧州全体の銀行が資金調達難となっている兆候はなく、一部の国の特定の銀行が資金調達に苦慮しているのみ。
ギリシャを中心にアイルランド、ポルトガルなどの重債務国問題を救済する基金である欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の拡充法案を巡るユーロ圏参加国での議会審議に現在注目が集まっています。中でもドイツの議会審議は今後のギリシャ支援の動向を占う上で最も注目されていましたが、9月29日に圧倒的多数で批准されています。これにより批准を終えていない国は、オランダ、スロバキア、マルタのみとなりました。スロバキアは最悪のケースで12月まで採決が後ろ倒しになるリスクはありますが、他の国は概ね10月中旬までには議会採決が終了し、(1)EFSFの最大融資可能額の拡大(約2,500億ユーロ→約4,400億ユーロ)(2)国債購入や銀行への資本注入(3)財政難国への予防的な与信供与が可能になる見込みです。
グラフ1:EFSFの潜在的利用額

ただし、EFSFの最大融資可能額が4,400億ユーロに引き上げられたとしても、欧州ソブリン(国債)危機がイタリアまで波及した場合は規模としては不十分と見込まれます。ただ、仮に危機が他国に波及せず、ギリシャ一国内に食い止められた場合は対処可能ともいえる規模です。そこで、欧州当局は他国へのソブリン危機の波及を回避し、危機をギリシャ一国のみに留めるため方策を立てることが要求されています(グラフ1)。
グラフ2:ストレステスト対象銀行(PIIGS)の対PIIGS向けエクスポージャー合計

前述のソブリンエクスポージャー(金融機関などで、リスクにさらされている投融資や保証の総額)に加え、民間銀行のPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)諸国民間向けエクスポージャーも含めて試算すると、仮に欧州全体に波及する銀行危機が起きた場合、4,400億ユーロという規模では、やはりギリシャの銀行までの救済が精一杯ということがわかります(グラフ2)。
グラフ3:ECBによるリファイナンシングオペ状況

現状、欧州の信用不安・銀行危機(資金調達難)の兆候は一部の国の一部の銀行にのみ顕在化しており、欧州の銀行全体には波及していないものと見てとれます。例えば、欧州中央銀行の市中銀行へのドル資金供給オペ(7日物)への応札銀行数は1行程度であり(表1)、また定例のリファイナンシングオペ(欧州中央銀行からの資金の借り入れ)でも一行当りの応札額こそ増加傾向にあるものの、応札銀行数はリーマンショック当時を下回る低水準にあることがわかります(グラフ3)。このことは、特定の国の特定の少数の銀行のみが資金調達に苦慮している状態が示唆されるのみで、欧州の銀行全体が資金調達難で危機的状況に陥っている思惑は過剰反応と考えられます。
表1:欧州中央銀行ECBによるドル資金供給オペ応札状況
実行日 | 応募金額 (10億$) |
応募銀行数 |
---|---|---|
2011/7/7 | 0 | 0 |
2011/7/14 | 0 | 0 |
2011/7/21 | 0 | 0 |
2011/7/28 | 0 | 0 |
2011/8/11 | 0 | 0 |
2011/8/18 | 0.5 | 1 |
2011/8/25 | 0 | 0 |
2011/9/1 | 0 | 0 |
2011/9/8 | 0 | 0 |
2011/9/15 | 0.575 | 2 |
2011/9/22 | 0.5 | 1 |
2011/9/29 | 0.5 | 1 |
金融市場動向
関連記事
- 2025年02月20日号
- 機械学習の手法を活用しシクリカル株に投資(前編)
- 2025年01月23日号
- 成長性を評価する定量指標(1)
- 2025年01月17日号
- 【アナリストの眼】データが導くヘルスケアのイノベーション
- 2024年12月13日号
- 【アナリストの眼】食品企業の挑戦:インフレ継続をチャンスに変えられるか
- 2024年11月18日号
- 【アナリストの眼】KDDIがローソンと挑む「ソーシャル・インパクト」は、株主の期待に応えられるか?
「金融市場動向」ご利用にあたっての留意点
当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
【当資料に関する留意点】
- 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
- 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
- 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
- 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
- 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。