金融市場NOW

円高とG7協調円売り介入について

2011年04月01日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
  • 生損保のリパトリエーション(資産の国内回帰)を背景とした足元の円高は根拠に薄く投機的色彩が濃い。
  • 為替介入警戒感は事あるごとにくすぶり続け、円高の牽制要因に。

東北地方太平洋沖地震を受け、保険金支払いに充てる円資金需要から「生損保が海外資産の売却(リパトリエーション)に走る」との投機的思惑から、ドル/円は一時76円台まで円高が進行しました。これに対し、主要7ヵ国は「為替レートの過度な変動や無秩序な動きは経済・金融の安定に悪影響を与える」と声明し、ドル/円では1995年以来の協調円売り介入を実施しました(3月18日)。協調介入を含む過去の円売り介入は時間差を伴いながらも、一定の効果を上げてきたようです(グラフ1)。日銀単独の円売り介入は、大企業の年度計画想定為替レート(日銀短観)に対して大幅な円高水準で実施される傾向があります(グラフ2)。今後も単独・協調介入に対する警戒感はくすぶり続け、急激な円高の牽制になるものと考えます。

グラフ1

出所:ブルームバーグ、財務省のデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

グラフ2

出所:ブルームバーグ、日本銀行のデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

一時76円台まで進んだ円高の材料に挙げられていたのは 生損保のリパトリエーションへの思惑です。その実現可能性を占う上で、阪神淡路大震災当時のリパトリエーションの動向を見てみました。データを見る限り、当時の生保が、海外資産を売却した形跡はありません(グラフ3)。また当時の再保険収支が黒字化(円高圧力)してもいません(グラフ4)。仮に、生保が保険金を捻出する必要があるとしたら、それは海外資産の売却よりも、むしろ残高を積みましてきた国内資産の売却が妥当ではないかと考えます(グラフ5)。従って、リパトリエーション観測を背景とした足元の円高は根拠が薄く、投機的な色彩が濃いものと考えます。与謝野経済財政相は「生損保のリパトリエーションの噂は事実と異なる。保険金支払いは国内の円資金で十分。保険金支払い総額は5,000億円にも満たない」とコメントしています。

グラフ3

出所:ニッセイ基礎研究所のデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

グラフ4

出所:ニッセイ基礎研究所のデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

グラフ5

出所:ニッセイ基礎研究所のデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

グラフ6

出所:ブルームバーグのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

生損保の日本へのリパトリエーションばかりが注目され、投機の材料にされていますが、昨年10月以降、累積約3兆円の買越しとなっている外国人投資家の対日株式投資フローがリスク回避により、リパトリエーションした場合は円安への思惑が台頭することも視野に入れなくてはなりません(グラフ6)。

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