金融市場NOW
出口戦略(金融緩和の解除戦略)のカギを握るインフレ動向
2010年05月06日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
- 日本は言うまでもないが、欧米の出口戦略議論は本格的なインフレが予想しにくい環境では時期尚早。
- 通貨市場では、現状、インフレ観測が利上げ観測を呼び、金利差に着目が集まっており、デフレ環境下の円の上値は限定的。
中国、インド、シンガポールとアジア諸国で相次ぎ利上げが発表されています。その背景には、景気回復を受けて、当局の軸足が景気刺激からインフレ抑制にシフトしたことがあげられます。また、米国金融当局が出口戦略に向けて地ならしを始めたとの思惑も台頭しています。
そもそも、インフレとは、モノの価格が上昇し、お金の購買力が低下することですが、その発生源は(1)生産コスト(原材料・賃金)が上昇することで発生するコストプッシュインフレ(2)景気が過熱し、総需要が総供給を上回ることで起こるデマンドプルインフレがあります。現在のインフレ懸念は主に、原油価格等コモディティ価格の上昇を受けたコストプッシュの側面が強く見えます(グラフ1参照)。世界最大の原油消費国である米国を例にとると、過去の原油高騰を受けたインフレ局面では、価格高騰から消費者がガソリン等の消費を抑え、原油価格が需要と供給が均衡するところまで下がるという、インフレの自動調整メカニズムが働いてきました。この先、原油価格がどこまで上がれば、需要は衰えガソリン価格や原油価格は低下するのでしょうか?何かの目安はあるのでしょうか?ちなみに、過去1979年~1980年代初頭の原油価格高騰時は、米国のガソリン消費の対GDP比が3%強を示現しました。それを起点に需要が減退し、原油価格は長期に渡り低迷しました。つまり、価格の自動調整メカニズムが働いたわけです。現在の米国経済は、景気刺激策効果が主導し、景気が回復している段階で、消費の本格回復には時間がかかりそうです。であれば、おのずとコモディティに対する需要も抑制的になり、コストプッシュインフレが加速する可能性、ひいては米当局がインフレ抑制から利上げを行う可能性は現段階では低いものと考えられます(グラフ2参照)。
グラフ1

グラフ2

グラフ3

米国や日本では、賃金が頭打ちとなっています。足元はその傍らで、物価が上昇しており、過去と比べても異例な状況となっています(グラフ3参照)。このことから現状はコストプッシュインフレの芽が出てきたとはいえ、賃金が抑制的な中、原材料価格高騰に主導されたものであり、本格的なインフレを懸念する段階にはきていないと考えられます。
グラフ4

一国の総需要(実際のGDP)が総供給(潜在GDP※)を上回ることで起こるインフレをデマンドプルと言いますが、その状態を検証する指標の一つにGDPギャップ<(実際のGDP-潜在GDP)/潜在GDP>があります。IMFのGDPギャップ推計によると、日米欧とも供給が需要を上回った状態であり、デマンドプルインフレの環境にないことがわかります。特に、日本はデフレ環境が深く、最もインフレや利上げに遠い環境にあります。その反対に豪州はインフレ圧力がかかる見込みであり、現在の利上げ環境に整合的です。
- 労働力や資本・設備をフル稼動して得られる生産の上限(国の総生産の潜在能力)
世界的に景気回復が鮮明化しはじめた2009年第1四半期以降の主要通貨の対円パフォーマンスを見ると、グラフ5のような結果になりました。その上でグラフ6を見ると、横軸の2010年消費者物価予想値(主要金融機関予想中央値)が、より高く、かつ縦軸の2010年政策金利予想値(主要金融機関の予想中央値)が、より高い国の通貨が、グラフ5で上位のパフォーマンス示している傾向があることがわかります。つまり、グラフ6の、より右上方向に位置している国の通貨(インフレ懸念が台頭し、利上げが予想される国の通貨)が現在の環境では強くなる傾向があるようです。ちなみに日本は最も、左下方向に位置しており、インフレ動向、政策金利動向の観点だけに注目すると、円は最弱通貨群と見られます(グラフ6参照)。
グラフ5

グラフ6

金融市場動向
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