金融市場NOW
ユーロ圏の財政規律問題 経過観察
2010年04月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
- ギリシャの今年3度目の財政引き締め策は、EU(欧州連合)が要請した上限レンジで、単年度で期待できる最大限の財政引き締め策。
- ギリシャの10年国債入札結果は好調であり、市場の不透明感が払拭されつつある。
- ギリシャは4-6月期に国債の大型償還を控えており、当面はこれを乗り切る資金調達ができるかに市場の注目が集まっている。
グラフ1

3 /3にギリシャは、2010年の政府財政赤字を約48億ユーロ(対GDP比約2%)削減する追加の財政緊縮策を発表しました。これは、今年に入って3度目の財政引き締め策であり、全てを合わせると、対GDP比6.5%前後の大幅な規模となりました。この措置に対して、格付会社のS&Pはギリシャの長期格付けに対するネガティブ(格付け引下げの可能性があることを示す)を解除した上で、「ギリシャが打ち出した財政赤字削減策は、2010年の財政赤字目標(対GDP比8.7%)を達成するのに適切だと考えている。」と述べました。これに加え、3/4のギリシャ10年国債の入札が好調な結果(発行額50億ユーロに対して応札額160億ユーロ・応札倍率は3倍超)となったこともあり、ギリシャ10年国債の対独10年国債との利回り格差は約4%から3%台前半に縮小しています(グラフ1参照)。
グラフ2

ギリシャの追加財政緊縮策の発表が市場に評価されたこともあり、ギリシャは50億ユーロ(約6050億円)の10年国債を好調な入札条件で発行することができました。応札倍率は約3倍だったことに加え、利回りは2019年償還の既発債に0.3%上乗せした比較的低めの水準であったことから、同発行が成功したと考えられます。ただ、4-6月期には205億ユーロの国債(財務省証券含む)の償還を控えており、同償還財源の資金調達に懸念が残ります(グラフ2参照)。ですから、ギリシャにとっては、現在高止まりしている資金調達コストを低く抑える(金利低下を促す)ためにも財政問題の解決に道筋を示す必要があります。
ギリシャでは対GDP比で100%を越える政府債務残高を背景とした多額の利払い費負担が財政赤字拡大の一因になってきました。利払い費負担は通常、金利の上昇によって増加しますが、ギリシャでは2008年以降急激に同負担が増加しています(グラフ3参照)。現状、ギリシャの10年国債金利は、独10年国債金利やユーロ圏政策金利を大幅に上回る水準に上昇しており、利払い負担増が懸念されます(グラフ4参照)。そんな中、前述した通り4-6月期の大量償還に対する資金調達を好条件で進めるために、金利低下を促すことが必須です。3/25のEU首脳会議で欧州首脳はギリシャへの緊急支援にIMF(国際通貨基金)からの資金を活用することで合意しましたが、これが市場の信認につながり、金利が低下するのか要注目です。
グラフ3

グラフ4

ポルトガルは3/10に2021年償還の国債を約9億9000万ユーロ(約1220億円)入札を行いました。当初の入札予定額は7億5000万ユーロでしたが、需要がこれを上回りました。また、先月実施した同年限国債の入札では落札利回りが4.82%だったのに対して、今回は4.171%と好調な入札結果となったことは、市場の安心感の現れと考えられます。ポルトガル国債の償還予定についてはグラフ6の通りであり、ギリシャほどの償還負担ではありません。また、利払い費の対GDP比もギリシャの約半分程度(グラフ3参照)かつ、金利上昇による利払費負担もギリシャほど急激ではなく、落ち着いたものに留まっています(グラフ5参照)。ちなみに、格付け会社フィッチレーティングスは3/24にポルトガルの信用格付けを1段階引き下げ、従来の「AA」から「AA-」としました。見通しはネガティブに据え置かれましたが、市場の反応は限定的となりました。
グラフ5

グラフ6

金融市場動向
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