金融市場NOW
ユーロ圏の財政規律問題とユーロ
2010年03月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
- ギリシャの財政規律問題を背景としたユーロ安は、過剰反応の域に達した感がある。
- リスク回避からの円高議論も実はあまり整合性がない。
ギリシャ問題を受けて、国債の債務不履行をカバーする保険料ともいえるCDS市場(クレジット・デフォルト・スワップ)ではギリシャの同指標が悪化するのに伴い、ユーロ/円が円高推移しています(グラフ1参照)。一方、独、仏の同指標は安定推移しています。経済規模(ユーロ圏全体のGDPに占める各国の割合)を見ると、独、仏だけでユーロ圏全体の約40%にも達するのに対し、ギリシャは約2%程度の比率しかありません。それにも関わらず、ユーロ/円はまるで、ギリシャの債務不履行を視野に入れたかのような投機的な値動きを続けています。ギリシャの格付けは現在BBB+でCDSは351bp(1bp=0.01%)ですが、同じ格付けの他国のCDSとギリシャを比較すると格段に高いことがわかります。また、ギリシャのCDS水準は、投資不適格級の他国の一部よりも更に高く、2002年に債務不履行となったアルゼンチンに迫る勢いです。これだけを見ると、ギリシャのCDS水準は、まるで債務不履行とユーロ圏離脱という最悪シナリオを織り込んでいるかのようです。現実問題としてこの水準自体が過剰反応で投機の色彩が濃くなっているとの声が一部、市場参加者の間で聞かれます(図1参照)。
グラフ1

※CDSは5年物
図1

ユーロ圏での財政規律問題を受けて、円が投資家のリスク回避行動の逃避先になっているため円高が進んでいるとの議論があります。確かに過去の金融危機等のリスク回避局面において、円は逃避先となる傾向が強く見られます(グラフ2参照)。しかし、ギリシャの格下げが報じられた2009年1月以降の円の動きは過去のリスク回避局面と異なり、円が逃避先になっている兆候は見られません。また、ユーロ圏金融市場の信用不安の代替指標であるユーロ圏TEDスプレッド(3ヶ月ユーロ圏国債と3ヶ月Liborの金利差)が信用不安の落ち着きを示唆する中では、リスク回避からの円高議論も根拠が薄く、投機的な感が強く見えてしまいます(グラフ3参照)。
グラフ2

グラフ3

PIGS諸国(※)のうち、特にイタリア、ギリシャ、ポルトガルは、ユーロ加盟の恩恵をその金利低下効果によって受けてきました。つまり、ユーロ加盟国という信用のおかげで、国債の金利を独、仏並みに低く発行できるようになったのです。このため、ギリシャの債務不履行リスクが喧伝される中、PIGS諸国の国債利払い負担は実は、歴史的に見て低い水準に抑えられているのです(グラフ4参照)。仮にギリシャがユーロを離脱することになった場合、ユーロ加盟の恩恵を失うこととなり、同国の金利は急上昇し、当然、利払い負担は悪化することになります。つまり、ギリシャにとってはユーロ離脱は最悪シナリオであり、この回避が政治的至上命題であることは言うまでもありません。ギリシャは今後、財政規律改善へ過酷な道程を歩まねばなりませんが、長期的な観点に立てば、それは健全性を高めることにつながると考える市場参加者もいるようです。現状、ギリシャの財政規律のみに市場の目がゆき、ユーロ圏全体での財政状態に目が行かなくなっていますが、ユーロ圏政府債務の対GDP比は2010年予想ベースで83.8%(欧州委員会予想)と日本の227%や米国94%(共にIMF予想)と比較しても少ないことがわかります。また、2008年からの同上昇幅でも日米英よりも低いことがわかります(グラフ5参照)。
- 財政規律が懸念されるポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインの4カ国。アイルランドを加えた5カ国でPIIGSとされる場合もあります。
グラフ4

グラフ5

金融市場動向
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