金融市場NOW

経常収支・対外純資産残高と金利・通貨の関係

2009年11月02日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
  • 経常収支赤字国は金利を高めに設定する傾向がある。逆に日本のような黒字国は低金利傾向。
  • 通貨市場は年初来、金利差が相場のテーマになっている。この環境では円の低金利は不利に映り、主要通貨中で円は最低のパフォーマンス。
  • 先進国の中で最も物価上昇圧力から遠い環境=利上げ環境から遠い環境にある円は調達通貨になりやすく円キャリー取引の回復も視野に。

グラフ1

出所:ブルームバーグ

国と国との貿易や投資などに係わるお金の出入りの収支を経常収支といいます。例えば、米国は世界最大の経常収支赤字国ですが、この状態は、「米国から出て行くお金の量>入ってくるお金の量」、つまり赤字の状態ということです。よく、為替市場では米国の経常赤字はドル安要因と言われますが、問題は経常収支赤字を補うこと(ファイナンス)が出来ているか否かがドル安懸念につながるキーです。米国は経常収支赤字のファイナンスを海外からの対米証券投資や直接投資に依存していますが、経常収支赤字がドル安懸念となるのは、「経常収支赤字>対米証券投資額+直接投資額」の局面といえます。そう考えると現状は米国の経常収支赤字がドル安懸念に直結する可能性は低そうです(グラフ1参照)。
実際、経常収支赤字とドル実効指数の間には言われているほど密接な連動性はありません(グラフ2参照)。米国をはじめ経常収支赤字国は赤字のファイナンスのために、他国からの証券投資を誘引する必要があるため、金利を相対的に高く維持する傾向があります(グラフ3参照)。逆に日本やスイスのような経常黒字国は赤字のファイナンスをする必要がないため低金利の状態でもいいわけです。現状は金融危機の影響から各国間の金利格差はさほどありませんが、今後景気の回復傾向が続き、金融市場が正常化に向かう過程では、金利格差が鮮明化し、通貨市場がそれを主要テーマに動き出した場合、グラフ3の金利を高く維持する必要がある国の通貨が、円のように低金利でよい国の通貨をアウトパフォームする可能性も視野に入ります。金融危機後、先進主要国の中で初の利上げとなった豪州の通貨である豪ドルが対円で上昇したのはその証左かもしれません。

グラフ2

出所:ブルームバーグ

グラフ3

出所:ブルームバーグ

通貨市場では、金融危機の安定と経済の回復傾向を受けて年初来、金利格差を反映した相場つきになっています。円キャリー(円借り取引)の各通貨パフォーマンスを見ると、相対的に金利が高い国や、今後利上げが見込まれる国の通貨が上位にきていることがその証左です(グラフ4参照)。将来、利上げする可能性がある国を探す際の一つの判断基準にGDPギャップがあります。これは潜在的GDPと実際のGDPとの格差ですが、マイナス幅が大きいほど物価低下圧力が強いことを示唆します。つまり同数値が最低の日本は利上げする環境に最も遠いと考えられます。最近利上げした豪州やノルウェーなどは、利上げ環境により近いところにあると考えられます。金利差がより反映される相場展開になった場合、低金利の円は魅力的でないとの見方もできます(グラフ5参照)。

グラフ4

出所:ブルームバーグ

グラフ5

出所:IMF
(注)2009年、2010年はIMFの予想ベース

グラフ6

出所:財務省

日本は世界最大の対外純資産保有国です(グラフ6参照)。
この意味するところは「日本人が保有する外国株や外国債券および外国不動産の合計金額の方が外国人が保有する日本株や日本債券および日本の不動産の合計金額よりも遥かに多い」ということです。実際、外国人から見た日本株(ドル建日経平均)のパフォーマンスは2000年以降、米国株に負けており為替リスクをおかしてまで日本株に投資する妙味はありません(グラフ7参照)。逆に日本人から見た米国株(円建米国株)は日経平均のパフォーマンスを上回っており投資妙味があります(グラフ8参照)。また低金利の日本債券に外国人が投資妙味を見出す可能性も少ないでしょう。一方、日本人から見た海外債券は高金利に見え投資に整合性があります。日本の低金利環境、低成長環境が続いた場合、「日本から海外への投資>海外からの日本への投資」の環境が続き、世界最大の対外純資産保有国の地位は変わらないのかもしれません。

グラフ7

出所:ブルームバーグ

グラフ8

出所:ブルームバーグ

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