金融市場NOW
金融危機と円・リスク通貨の反応
2009年06月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
ドルは、戦時や世界的景気減速、および金融危機局面において、その流動性の高さから上昇する傾向があり、いわゆる「有事の避難通貨」としての側面を持っています。円もドルとは別の理由で、避難通貨となる傾向があります。今回は、そのロジックについて検証してみました。
円は現在と過去の金融危機局面において、避難通貨として上昇する傾向があるようです(グラフ(1)参照)。現在の金融危機局面をリーマンショック(2008/9/15)~米国株の底値(2009/3/6)とし、この間の各国通貨の対円パフォーマンスを計算すると、円は世界最強の避難通貨として評価されました(グラフ(2)参照)。
円が最強の避難通貨となる要因の一つとして、「日本が約250兆円の世界最大の対外純資産保有国」であることが挙げられます。通常、金融危機局面では投資家のリスク回避姿勢が強まり、国際間の証券投資など、資金の流れが停滞します。その際、経常収支赤字・対外純資産残高が赤字の国は、海外からの証券投資流入が滞り、赤字の返済・ファイナンス懸念が台頭し脆弱になります。一方、経常収支黒字・対外純資産残高が黒字の国はファイナンス懸念が生じません。だから対外純資産残高が世界一の日本の通貨である円が選好されるのかもしれません。
実際、グラフ(3)の対外純資産残高の対GDP比が高い国ほど、グラフ(2)のパフォーマンスがよく、その順位が、ほぼグラフ(3)の順位にリンクしていることがわかります。
グラフ(1)金融危機勃発日以降約1年間の円実効レートの推移

(注)金融危機勃発日=100として指数化
グラフ(2)金融危機局面(※)での各通貨の対円騰落率

(※)2008/9/15~2009/3/6
グラフ(3)各国の対外純資産残高の対GDP比

グラフ(4)金融危機緩和局面(※)での各通貨の対円騰落率

(※)2009/3/9~2009/5/28
金融危機局面では円は避難通貨となり上昇しますが、今年の3月上旬以降、現在に至る期間では、金融危機が最悪期を脱したとの観測が台頭しており、各国通貨の対円パフォーマンスは危機の真っ只中と比べ、大きく変わりました。つまり、金融危機では避難通貨として選好された円やドルが他国通貨比で反落する一方、リスク通貨群が上昇しています。このまま金融危機観測が後退すれば、少なくとも避難通貨「円」への需要は後退するのかもしれません。
グラフ(5)金融危機環境の代替指標と対円での各国通貨

(注)各通貨は2008/5/1を100として指数化
昨年9/15のリーマンショック以降、市場のリスク許容度は急速に低下しました。このことを反映する指標の一つにCDX北米投資適格指数があります。これは社債の債務不履行が起きた場合に支払いを保証する保険料の一種を指数化したものです。この指数の上昇(グラフ(5)赤折れ線グラフの下落:市場のリスク回避拡大)に連れて、避難通貨である「円」は全面高となってきましたが、現在、同指数は、ほぼリーマンショック以前の水準に回復しています。円もこれに連れ、対リスク通貨群を中心に反落傾向にあります。
グラフ(6)信用リスクの代替指標と対円での各国通貨

(注)各通貨は2008/5/1を100として指数化
(※)ロンドン銀行間市場金利(LIBOR)と将来の政策金利を予想して取引されるOIS市場金利の利回り格差
金融危機・信用市場の崩壊はご存知の通り、昨年9/15のリーマンショック以降、急速に拡大しました。銀行間融資の貸し渋りの度合いを示すと言われるLIBOR・OISスプレッド(※)はリーマンショック後、急拡大し、避難通貨である円は全面高となりました。 現在、LIBOR・OISスプレッドは世界的な信用収縮緩和策を受けてリーマンショック前の水準まで改善しています。信用収縮懸念がこのまま後退すれば、市場の危機モードは緩和され円の需要は後退するのかもしれません。
金融市場動向
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