金融市場NOW
「米大統領就任」および「米国双子の赤字」とドルの関係
2009年02月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
米国では、8年ぶりに民主党政権が誕生し、オバマ氏が第44代大統領に就任しました。政権交代は、過去に通貨政策や財政政策変更等の憶測を呼び、為替市場はこれに反応し思惑的に推移する局面がありました。今局面はオバマ政権の巨額の財政出動を受けた財政赤字の拡大に市場の注目が集まっています。これは金融市場にどのような影響を与えるのでしょうか?今回はこの点に焦点を当ててみました。
74 年以降、米大統領選挙は今回を含め9回行われ、政権が交代したのは5度目となります。この間、政権交代に際し、通貨政策や財政政策変更の思惑がその時々ドルの動向に影響を与えてきました。ただ、大統領就任1年目のドル実効レートの前年変化率を見ると明確な傾向は見出せません。結果だけ見ると、今年を除く8回中、2回がドル下落、6回がドル上昇との結果になっています(グラフ1:赤棒グラフ参照)。2回のドル下落のうち、77年はカーター政権が、イラン革命での米大使館占拠事件や旧ソ連のアフガン侵攻を許したことで、米国の信任が低下した時期でした。85年はプラザ合意でドル安政策が採択された年でした。74年以降のドル実効レートの対前年変化率平均では大統領就任1年目と4年目にドルが上昇し、2年目と3年目に下落する傾向が見られました。
(グラフ1)大統領就任1年目のドル実効レート対前年変化率)

- 赤棒グラフ=大統領就任1年目
(グラフ2)大統領任期におけるドル実効レートの対前年変化率 (1974年以降の平均)

(グラフ3)米財政収支の対GDP比

景気の悪化と大規模な景気刺激策による財政出動により2009年の米国財政赤字は過去最高となる可能性が濃厚になっています。これを受け、ドルの脆弱性を指摘する向きもあります。ただ、財政収支の赤字拡大はただちに、ドル安に直結するわけではありません。なぜなら財政支出は総需要の増大に寄与し、景気と通貨にプラスの側面もあるからです。しかし、これは米経済が好調に推移し財政赤字のファイナンスに問題がない局面においての話です。大規模財政出動によっても景気が回復に向かわない場合は、財政赤字の拡大はドル安要因にもなりうる潜在的リスクがあります。
85年のプラザ合意以降、財政赤字の拡大は、国内の低貯蓄もあり赤字のファイナンス懸念につながってきました。加えて、経常赤字を含む「双子の赤字」が同時に拡大したときにはドル実効レートは明確に下落しています(グラフ4:四角囲い部分参照)。また、ドル実効レートは経常赤字よりも財政赤字の動向に連動性高く推移しているようです。ドル実効レートは、現在(1)米国の景気後退と相対的低金利という循環的なドル安要因、(2)構造的ドル安要因と目される財政赤字の拡大、を受けて脆弱な状態にあるように見られます。米国が現在、仮に好景気かつ相対的な高金利局面にあれば、構造的ドル安要因の一つである財政赤字はそのファイナンス問題が特段懸念されることもなく、財政赤字が循環的に改善してゆくことは過去の経験測が示唆しています(グラフ5参照)。しかし今局面での米国は景気減速かつ相対的低金利局面にあり、財政赤字のファイナンス懸念は潜在的なドル安リスクをはらんでいるのかもしれません。
(グラフ4)双子の赤字とドル実効レート

(グラフ5)財政収支の対GDP比と実質政策金利

実質政策金利=コア個人消費支出デフレーターで算出
(グラフ6)財政金融政策と通貨の関係

グラフ6は通貨の方向性を見る上で重要な財政政策と金融策の組み合わせ(ポリシーミックス)の相関図です。2008年は縦軸の金融政策が通貨の強弱関係を決める重要な要因となっていましたが、2009年は縦軸のゼロ近傍に各国の金融政策が収斂する傾向にあり、金利差は通貨の強弱を決める決定要因の主役ではなくなりそうです。その一方、横軸の財政収支では日米の大幅悪化を中心に各国間で、ばらつきが見られ、今後の通貨の強弱関係に影響を及ぼしてきそうです。この点には今後も注意が必要です。
- 2009年の政策金利は市場(OIS※)で織り込まれている1年後の政策金利の下げ幅から計算
※OIS…Overnight Index Swap市場
金融市場動向
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