金融市場NOW

米国のポリシーミックス(金融・財政政策・通貨政策)とドルの関係

2009年01月01日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

米国をはじめ、世界の金融当局は経済後退や金融危機への対処法として積極財政+金融緩和+通貨安という政策(ポリシー)を実施しています。この組み合わせ(ポリシーミックス)はマサチューセッツ アベニューモデルと呼ばれています。今回は当該ポリシーミックスと金融市場の関係について述べたいと思います。

減税などの財政政策や、量的金融緩和を含む金融緩和政策および通貨政策のポリシーを組み合わせて、期待される経済効果・政策目標を目指す枠組みのことを「ポリシーミックス」といいます。現在の米国のポリシーミックスは表(1)のケース4に該当すると考えられます。この場合、ドル安が政策目標に整合的な通貨政策と言えます。

(1)ポリシーミックスの実施可能な組み合わせ

  財政政策 金融政策 通貨政策 政策目標
ケース1 緊縮 引き締め 通貨高 景気過熱回避
ケース2 緊縮 緩和 通貨安 財政赤字削減
/経常黒字拡大
ケース3 拡張 引き締め 通貨高 財政赤字拡大
/経常赤字拡大
ケース4 拡張 緩和 通貨安 景気刺激

(2)主要国の貯蓄と投資のバランス

出所:IMF

現在の米国のポリシーミックスはドル安が整合的と述べましたが、これに反して米国通貨当局は「強いドル」を表明し続けています。この背景には「米国が経常赤字を世界からの対米投資によりファイナンス(補っている)している事情があるため」との見方が一般的なようです。つまり、通貨当局が「ドル安政策」を表明した場合、世界からの対米投資が滞る可能性があるため、米国通貨当局はドルの価値を、ある程度維持する必要があるとの見方です。また、米国は他国と比べて、貯蓄の比率が低いため、借金(外部からの資金調達)をしないと投資をし難い状況にあります。この環境の中、世界からのマネーフローである対米投資を停滞させ、資金調達を困難にする可能性がある「ドル安政策」は公言できないのかもしれません。

(3)米国の財政支出状況

出所:US Bureau of Economic Analysis

ポリシーミックスのなかで財政政策が緩和的な状況は、景気に対して刺激的な環境と言えます。グラフ(3)は、実質政府支出伸び率の1970年以降の平均値(+1.8%)からのかい離幅をもって、財政が緩和的なのか緊縮的なのかを判断したひとつのアプローチです。2009年以降オバマ次期政権でも、更なる積極財政が見込まれます。

現在の米国のポリシーミックスは積極財政+金融緩和+通貨安であると述べました。グラフ(4)は世の中に出回っているお金の総量を見る指標であるマネタリーベース(※1)の伸び率ですが、準備預金(※2)への付利等による流動性供給を受けて2008年9月以降急激に膨張しています。これは実質、量的金融緩和が実施されている証左といえます。また、グラフ(5)はFRBの資産の対GDP比です。こちらも量的緩和の一環として金融システムへの流動性の供給を意図した一連のファシリティー(※3)導入を受けて膨張しています。

  1. 世の中に出回っているお金の総量
  2. 金融機関がFRBへ預け入れる預金
  3. TAF(金融機関からFRBへのターム物入札による担保付き貸し付け)、PDFC (プライマリディーラー向けFRB貸付)、ディスカウントウィンドー(金融機関の資金調達が困難になった場合FRBから借り入れを行える制度)など

(4)米国のマネタリーベース(※1)

出所:ブルームバーグ

(5)FRB(連邦準備制度理事会)の資産

出所:ブルームバーグ

(6)ヘッジファンドの運用成績とドル実効レート

出所:ブルームバーグ

ヘッジファンドの運用成績は足元、1990年以来で最悪となりました。このため、2008年9月以降、ヘッジファンドの解約が急速に進み、世界中の資産が売却・現金化され米国に資金が回帰しました(リパトリエーション)。このため、ファンダメンタルズの悪化にも関わらずドルが上昇しました。しかし、2008年12月5日に発表された悪化の一途を辿る雇用統計を境に、米国のファンダメンタルズの悪さに注目が集まり、ドルは全面安に転換しました。ドル安は現在のポリシーミックスの観点からは整合的です。リパトリエーション相場の流れを受けて一時、ドルと共に上昇した円も、ファンダメンタルズ相場への回帰を受けて対ユーロ、対豪ドルを中心に反落に転じました。

金融市場動向一覧へ

「金融市場動向」ご利用にあたっての留意点

当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。

【当資料に関する留意点】

  • 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
  • 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
  • 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
  • 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
  • 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。